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まともじゃないのは君も一緒のymdのレビュー・感想・評価

3.7
やはり成田凌は最近の役者の中で頭一つ抜けた存在だと再認識するのにぴったりの一作。

モデル出身であることが自明だけど圧倒的に”見栄えがいい”のに、演じる役柄に合わせてそれを霧消させることができる。
モデル出身の役者が陥りがちな、ルックスが良いが故の袋小路感がまったく無いのである。

本作はそういう点で、成田凌は完全にズレたオタクを演じ切ることに成功している。
どんなビシっとスーツをキメても拭いきれない、滲み出る鬱屈としたオーラがとにかく素晴らしい。

そして映画そのものもとても面白い。
圧巻のセリフの応酬が繰り広げられる会話劇なんだけど、言葉ひとつひとつが冴えていてくすりと笑えるユーモアが満載。

まぎれもないコメディ映画ではあるけれど、邦画特有の大仰な白々しさがないのが好みだし、キャラクターのポジショニングも序盤で明確にしているから言葉が上滑りすることなくハマっているのである。

どうでもいいけど小泉孝太郎演じる宮本の造形が、完全に身内のサンプリングだったのは最高に面白かったです。

ウェットすぎない恋愛描写も絶妙で、大野(成田凌)と秋本(清原果耶)の奇妙なバディ感から徐々に接近したり離れたりする温度感の取り方がどうにもリアルだし、大野と戸川(泉里香)の危うさを孕んだ距離感の描写も素晴らしかった。

社会の中で生きるということは往々にして「まともであること」を求められるものだけど、何をもって”まとも”とするのか、”まとも”な状態とは何なのか。

それを測るのは他者ひとつひとつの視点でしかないわけで、戸川と宮本が下した”まとも”な決断は大野と秋本にとってはそうじゃないわけで。

普通なことはつまらない、なんて言えるほどぼくは尖っていられる人間じゃないけれど、他人に対してはそうした杓子定規は持ちたくないな、と本作を観て改めて襟を正したのである。

単純にコメディ映画として笑える一方で、社会規範の下で生きる現代人に向けて辛辣なメッセージも内包した本作、まともじゃありませんでした。
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