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ペルシャン・レッスン 戦場の教室のzogliのネタバレレビュー・内容・結末

2.6

このレビューはネタバレを含みます

英字幕版円盤を鑑賞

1942年、フランス
スイスに亡命する道中にドイツ軍に捕らえられ移送トラックの中で知らぬユダヤ人から持っているサンドイッチ半分と引き換えに読めもしないペルシャ語の本を譲り受けたベルギー系ユダヤ人の青年が主人公
森の中で集団銃殺されそうになった際に『ユダヤ人ではなくペルシャ人だ』と自らを偽り本を差し出し命乞いをするところからスタート
フランスに在るナチのとある強制収容所に駐在するSS大尉クラウスコッホは戦後テヘランでレストランを持つのが夢だという元料理人で、彼のペルシャ語を学びたいという望みを知っていた伍長達はその『自称ペルシャ人』を殺さずに大尉の元へ連れて帰る
大尉にペルシャ語を教える事を条件に過酷な強制労働と処刑を免れた青年は自分がペルシャ人とベルギー人の混血であり本に書いてあるレザというのが名前、自宅ではペルシャ語を話していたが書いたり読んだりは出来ない…などと嘘に嘘を重ね、調理場での労働(採石場での強制労働よりははるかに軽作業)に就き、日々の仕事の後に大尉の私室で知りもしないペルシャ語をでっち上げてレッスンを施す事になる、という話

レザとコッホ大尉の関係性、レザがペルシャ人などではないと疑っている伍長達とその周囲のドイツ将校たちの収容所のあれこれが描かれるが、思ったより開幕から暴力的(規模は小さいけどアインザッツグルッペン)
自死・拷問・強姦シーンと小児を対象とした殺害を含む残酷描写は無いけど、ナウエル=レザを含むユダヤ人収容者達が殴られて酷い目にあったり銃殺/斬殺されたりする描写が少なからずあるので、観るのに覚悟は必要
そしてそこまで見せる割には内容は重くなく、それほど深くもない

まぁ狙って泣かせにも来ないから不快では無いけれど、SS将校が元コック+デタラメ極まりない創作言語の学習をするというトリッキーな設定と、視聴者側には比較的どうでもいいナチ側の人間模様まで描写しているせいでそんな印象になるのかも?
途中の大佐のちんこの話とか最終的な顛末に滑稽な要素があって、それもせっかくの雰囲気を軽くしてしまっているように思う


几帳面でプライドが高く短気で 気に入らないことが有れば相手が部下/収容者なら怒鳴りちらし拳をふるい、かと思えば意のままに物事が進めば不適に笑い、ありもしないデタラメな言葉を目を輝かせて懸命に学習しそれを声に出して練習し…と非常に気味は悪いが憎めない(かもしれない)エキセントリックなドイツ将校役にアイディンガーはキャラクターとしてはぴったりだったとは思う
偽りに塗れた時間を重ねていくうちに築いた立場を超えた信頼/友情に似た関係だけは偽りではなくて、レザを軍規に反して/将校としての立場を利用してまで守ろうとする 人間味や自分の役割との間で生まれた葛藤を滲ませた芝居…彼だからこその(付帯効果)情緒もあって薄っぺらくない人物描写になっていた
将校服を脱ぎ捨てた後の解れた笑顔とアレな展開も彼の特性が活きててなおの事こちらは苦笑いである

ただ終盤、他人=ロッシ兄弟を気遣うレザに苛立ちを隠さない様子を見ると、大尉の彼に対する感情が信頼や友情というよりは最終的にはどこか所有欲に近いように見えてしまうのは製作側の意図だったのだろうか? 一介の囚人に嫉妬なんて、ねぇ

パウルのほっぺたぺちぺち叩いてるとことランチの鱒食べてる食事シーンがなんだか大好き

個人的には大尉の話してる内容が俳優の実年齢より若いのでちぐはぐな気がする部分がある…(過去の話や開戦時の年齢考えると大尉はいってても35くらいでは?)ので、関係を深めた囚人に自分の名前を呼ばせるにしても立場も歳も違い過ぎてて違和感満点だった
キャラクター的にはアイディンガーでたしかに合ってはいるが、せめてもう少し若い俳優で適任はいなかったのかなーなどとちょっと考えてしまった
そんな格差を乗り越えて2人は関係を深めたのだと言いたいのだとしても、愛を知らないだとかアイディンガーに言わせるのはさすがに無理があるだろ、と思うので
あとコックコート着てても手の芝居には元料理人の説得力はそんなに無い気がして、アートの人だから仕方ないのかもだけど


ナウエルはエキゾチックな外見でユダヤ人収容者役として違和感は無いかもしれないし言語的に達者なので相応だったとは思うけど、劇中に話題として『大尉の性愛の対象なのではないかと噂されている』と出てくるので「そういう」印象を視聴者に持たせる意図もあっての配役だったのかなとか考えてしまった
(なお男色どころかドイツ作品には珍しくおっぱいちらりだけでベッドシーンどころかキスシーンもありはしないが!)
集められては消されて行く無数の収容者達の名前を捩ってはデタラメペルシャ語を創作する日々はもちろん自分の命を守るためだったけれど、名を知りその人を知りその生と死の責任を自分でも背負ってしまうみたいな事は真面目な青年には重い事だったのだな、自分ばかりが偽りで身をかためて特別扱いを受けて安全に過ごしまともな食事を与えられ生き延びる事に罪悪感があったのだな とわかるあのラスト、せっかくの魂を打ち涙を誘うはずの『点呼』が直前のアイディンガーのアレでなんだかとっても台無しなので勿体なさが際立ってしまった

終盤のロッシ兄弟とのやりとりというか心の砕き方が急過ぎて理解が追いつかなかったけどあれはもういろいろ疲れてたって事でいいのかな…収容されて出会ったばかりの彼らを急にかばうような行動するから大尉も嫉妬?するし、後半がね…
ロッシ兄のあれもちょっと謎
レザがペルシャ人なんかじゃないと確信してて守ってくれたみたいに見えたけど前後が無いからわからなくてモヤモヤする


聞いてたよりも伍長のマックスバイエルが出ずっぱりで準主役級 だけど退場が雑〜!もう少し上手に使って視聴者をハラハラさせて欲しかった
ただし本作はヨナスナイの使い方としては大正解だと思うので、キャスティングした方に拍手をおくりたい
彼のドイツ軍服姿はもはやお馴染みだけど、声を荒げたり暴力振るったりしてる(観てるこちらは心が痛いけど)期待通りのナチ野郎演技、かと思えば恋するボーイの顔をみせたりと幅広い芝居が楽しめる!おまけにまさかアコーディオン弾いてくれてお歌まで歌ってくれるなんて!!(Pudeldameの最新リリース曲がschönなのでセリフにschön出てきた時はニコニコしてしまった)


パウル役のダーヴィトシュッター、ハンブルク出身になってて最初からニヤニヤしたけどあれやっぱりアドリブじゃないのか
そしてマックスより上官なのかどうか最後までわからなかった…肩章も一緒だし小突きあってるしシフト交換もしてるのにピクニックには招かれてるし!お前はなんなんだ!

本編は仏語、独語、偽ペルシャ語に加えて伊語と英語、”本当の”ペルシャ語まで出てきて他言語作品で耳はたまらなく楽しいけど、偽ペルシャ語のシーンがやっぱり何処かおかしくて…(過去や繊細な心を打ち明けたり、辛い状況を理解したりする鍵となる大事なシーンなんだけど、それでも全部デタラメじゃん?って冷めた気持ちで俯瞰で観てしまう自分が消せないせいなので、これはこちらの未熟性の問題です)

ナチの収容所ものとしては一応バッドエンドでは無いし観賞後に鬱にはならないしどちらかと言うと観やすい方だとは思うが、だとしても途中の残酷描写がネックで広く他人にはお勧めし難い

個人的には大尉の過去話がなんだかものすごくリアリティがあって困った
『今になるとどうしてだろうなと自分でも思う、通りを歩いているとナチ党員達が揃いの茶色の制服を着て快活に笑って話をしていた、それを見てその足でそのまま入党したんだ』みたいなやつ
誰も殺人がしたくて党員になったわけではなく下された命令に従い日々をこなすうちに非人道的な集団主義から抜け出せなくなってしまっていただけなんだ、って要素を個人的に汲み取りすぎてしまっているだけかもしれないけど、母親の話よりもよほど印象に残ったし泣きそうになった

大佐に遊ばれて捨てられて東部戦線に送られた赤毛のその後と缶詰の肉が気になる
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