シネマノ

砕け散るところを見せてあげるのシネマノのレビュー・感想・評価

3.7
『ジャンルを越境する豪腕うなる展開に評価は難しく、しかし狙いすましたラストに心砕かれる力作』

なんとも評価が難しい一作だった。
観ているなかで何度も、うーん…となった。
が、決して本作は駄作などではないのだ。

ヒーローに憧れる受験生と母。
高校生活に切り替わり、いじめに遭う女子生徒とそれを守ろうとする男子生徒の関係の始まり。

そんな導入から展開するドラマは、学園もの、いじめ問題、青春もの、ロマコメ、ラブストーリー、ヒューマンドラマ、サスペンス、果てはバイオレンスとホラーまでジャンルを越境する。

原作がある(未読のため、そこの評価ができていないのもダメか)ものの、一本の映画でまとめて展開させるSABU監督は、まさに豪腕。
展開されるパートのどれもが物足りないようでいて、でもまったくもってダメではない。

そう、天才的手腕ではなく、豪腕なのだ。
そこが本作をなんとも形容し難い一作にしていると感じる。
形容し難いのではなく、端的に形容できないと言ったほうが正しいか。

しかし、それでも本作を観終わったあとに感じることはたくさんある。

いじめとヒーローという、現代的でいて現代ではあり得ないであろう寓話について。
寓話的でありながら、救い容赦のない展開について。
ヒーロー映画全盛期のいま、力ではないヒーローのあり方を描くこと(当然マーベルもヒーローと力についてはしっかりと描いている)について。
身体的つながりと、精神的つながり、真に関係すること(2人の身体接触と性描写、おはぎとヒーロー、その成分と魂について語れることにも露わ)について。

そして、【砕け散るところを見せてあげる】というタイトルについて。

後半に待つ怒涛の展開に対して、前半のもどかしく小っ恥ずかしいまでのセリフの応酬と尺の使い方。
それは、決して本作の映画作品としての質を高めるものには足らなかったように思う。
しかし、2人の文字通り「永久機関な関係」に想いを馳せるには足りた、そう思う。

砕け散るところを見せてあげたい
砕け散るところを見(せ)たくはない

でも、互いに相手のことを想うとき。
本当の心を見たくて、鉄の仮面を外してほしくて、その仮面が笑みでくしゃっと砕けるところを見たいんだ。

力なきヒーローと力を求めるヒロインが必死にもがき、目指した【新しき世界】。
完璧なラストに心砕かれた韓国発の映画を彷彿とさせる狙いすましたラストシーン。

長い前髪で覆い見ないようにしていた残酷な世界は、いつも(自分と)クロスするように待ってくれていた人との逢瀬で砕かれる。

こっちじゃなくたっていい。
あっちだって構わない。
そう、この世界にあなたとなら。
シネマノ

シネマノ