もものけ

キャンディマンのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

キャンディマン(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

芸術家のアンソニーは、才能を引き出してくれる恋人のブリアナと、かつてスラム街だったシカゴの高級住宅街に住んでいた。
その街は、かつてカブリーニ・グリーンと呼ばれ"キャンディマン"という都市伝説がある街だった…。







感想。
「IT イット」の成功から80年代前後のホラー名作リメイク・ブームに乗りリメイク版なのかと思いきや、なんと「キャンディマン」事件の後日譚に乗せて、行政改革によって高級住宅街となったかつてのスラム街という時代の移り変わりや、黒人差別問題をテーマに、より社会風刺を強めて都市伝説ホラーとして描いた意欲的作品。

ローアングルで全くの逆転発想による都市のビル街を撮影するなど、斬新な撮影テクニックを用いたニアダ・コスタ監督は、これまたなんと女性監督でありアフリカ系黒人という立場から、強い黒人差別への社会問題を取り入れているのには納得ですが、過去シーンを影絵で表現したり、フレーミングでの被写体を斜めに切り取るなど、新しい発想を持った映像としても才能ある監督であると思います、非常に良い映像を撮ります。
製作と脚本に「ゲット・アウト」のジョーダン・ピールを起用するなど、単なるリメイク的続編ではない意気込みが感じられます。

「キャンディマン」では貧困問題をテーマに白人女性ジャーナリストが取材をする視点から、都市伝説として恐れられている"キャンディマン"に巻き込まれる演出でしたが、後日譚では過去を振り返る形でインスピレーションを受けようとする黒人が取材をしているという、構図こそは一緒ですが全くの別視点で時代の変化を演出しております。
中産階級以上で裕福さもあり、画廊を開いて高級住宅街に住む主人公ですが、画廊に訪れた批評家へ媚びへつらう姿と白人である批評家、罵り合い皮肉を言い合うゲストの黒人など、社会問題として置かれている黒人の立場へのメタファーを込めて、より寓話的に描いております。

綺羅びやかな照明効果やハイトーンの映像美に、ダークな雰囲気タップリの音楽と、広がりのある音響効果がマッチしており、ポップコーン・ムービーであるホラー映画の質を高めていて、鏡の中にしか存在しない"キャンディマン"の惨殺シーンなどをデジタル処理する最新映像テクニックで、オリジナル作品版のB級さを払拭しており、レビューの高い評価に同感。

功名心の塊のようなアーティストと前作のジャーナリストは、キャラクターとしてもリンクしており、物事に捕らわれ過ぎて精神が崩壊してゆく姿が皮肉的に描かれていて面白い。

シンメトリーのような鏡に映るエレベーターの映像や、家具の配置、図書館の本棚が立ち並ぶ映像、同じ扉が延々と回るように続く廊下など、日常生活のシーンと鏡を連想させるような映像トリックで、幻想的に演出している映像センスは素晴らしい。
フレーミングの何処かに隠れている"キャンディマン"を間違い探しのように見つけ、ゾッとさせられる演出など日本のホラー映画演出にも似ている点や、惨殺シーンをあえて表面に出さない演出など、ホラー映画として新しい試み。
批評家が殺されるシーンなどは、どんどん遠ざかるように引きの映像で、ほとんど見えないのに観客へ想像させて脳内変換できる程度の点として、ビル街の一コマに演出する逆転発想。
それでありながら、音響と音楽が効果的に煽って小説を読んでいるかのようにゾッとする感情だけが引き伸ばされてゆく斬新さ。
あえて見せないのに強烈なホラー映画となっているのは秀逸。

"シミは洗えば消えるが、そこには繊維に薄まって残っている"
この作品は、"キャンディマン"を虐げられた黒人の象徴として、"鏡に向かって5回名前を唱える"都市伝説で、名も無き人種差別の犠牲になっていった人々を忘れることがないように"名前"をキーワードに表現したメタファーであります。
ホラー映画としての怪物ではなく、鏡にしか存在しない"キャンディマン"は、そうした人種差別を受けた黒人一人一人の中に存在する姿を、反面として表現させた演出であり黒人誰もが持つ劣等感としての人種差別への抵抗意識なので、名前を唱えるとその人に現れる存在でもあります。
アフリカ系アメリカ人である黒人ニアダ・コスタ監督が、より意識的に強く表現したかったものが、そこにあります。
若手の監督の中では、非常に頭の良い感性を持ち合わせた監督の一人でもあります。

ローアングルで高層ビルを見上げる、まるで白人階級を地べたに這いつくばっているかのような黒人視点を演出しているかのよう。
過去の闇を見かけだけの繁栄で包み隠す、都市化計画への皮肉が込められております。
そして闇を忘れ去られ、擬似的な繁栄に酔い痴れて生活する人々。
忘れてはいけないという人種差別へのメッセージをホラー映画として演出する"キャンディマン"は、根が深いアメリカの闇として描かれております。

CGに頼らず特殊メイクで表現した皮膚病に侵されてゆくアンソニーは、様々な皮膚病などの映像を参考にしたらしく、よりおぞましくグロテスクに表現するリアルさが観客への反応に繋がる意図とのことで、存在に対して無意識に観客は本物と信じ込む暗喩です。

誰にでも存在する"キャンディマン"として、オリジナル作品のトニー・トッドがラストで登場。
続編となると本来のプロットに脚色を加え過ぎて、全くの別物作品となる駄作が多い中、近年稀に見るほどのオリジナル・コンセプトを忠実に守りながらも、斬新な視点と演出でリブート版ともいえるほどの完璧な出来のホラー映画。

芸術作品としても、哲学的作品としても、サスペンス・ホラー映画として、非常に素晴らしかった名作へ、4点を付けさせていただきました!

実際は4作目としての位置づけですが、2と3の中途半端な出来の悪さに、個人的には2作目としての位置づけを認定したくあります。
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