白瀬青

劇場版 きのう何食べた?の白瀬青のレビュー・感想・評価

劇場版 きのう何食べた?(2021年製作の映画)
4.0
正直に言うと、テレビドラマ版は「箸休めにいい」くらいの評価だった。安心して見られるけど原作と見比べたら凡庸。
しかし大きなスクリーンでみんなが幸せコメディパートにご笑いをどっかんどっかんさせてる中で見ると、めちゃくちゃいい。これだけ集まった観客が、主人公カップルのことを家族や近所のお兄さんみたいに好きで、ふたりが幸せだととても幸せなことがわかる笑いだ。恋愛モノの楽しみの一つはカップルを好きになって幸せを願うことではあるが、その恋愛ドラマの中でもこんなに愛されるカップルは珍しい。
その原作がBL漫画家のよしながふみであることも嬉しい。だって一昔前には、同作者の「アンティーク(原題:西洋骨董洋菓子店)」はゲイのパティシエとゲイ嫌悪の経営者の共同経営の話にもかかわらず、同性愛にまつわる設定はなかったことにされたのだ。
しかし今はゲイの日常を描く恋愛映画を、人気の邦画として劇場のスクリーンで見られる。その席にはたくさんの老若男女がいてほがらかな笑いに包まれている。
シネコンの大きな画面でかかること自体も嬉しい。
大きな画面で見ると細かな生活感に個性がにじみでているのに気づかされる。料理の話だからやっぱり料理の手つきにも違いがある。それも役者の素の料理スキルじゃなくて料理できる人が役者としてキャラを演じるときに出す手つきの違いだ。
調理道具の収納場所ひとつ取ってもその人が表れる。シロさんは几帳面なようでいて、冷蔵庫の上にタッパーが積み重ねてある。そのおかげで料理シーンがスムーズに進む。合理的なシロさんらしい。

原作よりとても好きなことは、実写版の佳代子さんがいい女なこと。原作のアクがなくていい人なんだけど、だからといってただのいい主婦でもない等身大の素敵な中年女性。

逆に原作を鑑みても、うーむと思うことは、あまりにもハゲを笑い者にしすぎること。オカマとハゲとデブがコメディだった時代から、ゲイはよくある恋愛の姿のひとつとして描かれつつある。じゃあそんな作品の中で、頭髪と肥満のことはいつまで笑ってるの? ……という視点が芽生えてくる。
ただ何かを丁寧に描くことで他の面の雑さが見えてくるのは悪いことじゃない。厳しい視点が芽生えてくるのもまた、素敵な邦画同性愛映画だからこその更なる期待があるからだ。期待していい作品だと信頼しているからだ。

とりあえず林檎とアイスでトーストが食べたい。
白瀬青

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