もものけ

ただ悪より救いたまえのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

ただ悪より救いたまえ(2019年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

東京のヤクザを殺す仕事を最後に、引退を決意したインナムは、ふと目にしたパナマの浜辺に惹かれて旅立つ決心をする。
しかし、ヤクザの弟であるレイが復讐を誓ってインナムを追い求める最中、元恋人が住むバンコクからの電話が、インナムの人生を変えることになるのだった…。





感想
アンチヒーローを主人公に、珍しく東京のヤクザと、在日韓国人をメインに描いたクライム・サスペンスで、バンコクが舞台という様々な要素をミックスしてエンターテイメントにしている作品。

もはやアジア圏の映画界ではトップランクのクオリティでもある韓国映画。
基本的コンセプトやプロットなどはハリウッド作品丸パクリですが、作品として作り上げる完成度が妙に高く、いまや邦画は比べ物にならないほど。

バンコクの治安の悪さを、殺し屋として生きてきた男が訪れる視点から表現しているので、展開に説明をうまく盛り込んでいます。
同時に金持ちをターゲットにした誘拐ビジネスの実態である、不動産を餌に呼び寄せるというリアルさが、タイの貧困と絡んでおります。

殺し屋vs殺し屋という構図ですが、互いに誘拐された少女の痕跡を追う展開をスリリングにまとめており、視点は面白いです。
悪の象徴としてのタトゥーは、一昔前の作品では「フロム・ダスク・ティル・ドーン」のゲッコー兄貴を有名にした左側のトライバルが、しばらく映画界で多用されてきましたが、この作品ではアメリカの音楽界で流行っておる首まで彫ったタトゥーをモチーフにしており、より凶悪さが全面に押し出されています。
前半のヤクザが全身入れ墨で登場するなど、"悪"=タトゥーという連想を強調しているようにも感じます。

この殺し屋二人が目を爛々と猛獣のように輝かせる演技が凄まじく、ナイフを使った格闘シーンの生々しさなど、ヴァイオレンス要素が暗めのトーンを使ったフィルムで際立ちます。
平然と情け容赦なく拷問を行う二人の殺し屋は、互いにアンチヒーローとしてのカリスマすら感じるほど。
いたいけない少女を救うプロットは「レオン」以来の流行りネタですが、この凶悪な二人が追い求める演出は斬新。
韓国映画の独特なセンスの良さがあります。

「トゥルー・ロマンス」の挿入曲でも有名なCharles & Eddieの”Wounded Bird”を作中で使うのはチープな演出で丸パクリが過ぎますが…。

フィルムの質感は好みです。
ダークさが明暗で強調されながらも、オレンジをメインにした映像が高いクオリティです。
ネオン街でのシーンなどは、美しさすらあります。

エンターテイメントな作品に、バンコクでの児童誘拐と、臓器密売という社会問題を切り口として、ドラマ性と社会性を演出しており、音楽効果がシリアスさをも効果的にしているので、危機感がヒシヒシと伝わってきます。

格闘シーンに、パンやティルトアップ・ダウンを用いた映像で、モーション効果によって動きにメリハリを持たせて、迫力を出しているアイディアが素晴らしい。
ハリウッド作品の何処かで観たことあるシーンばかりを、映像センスでカバーしていてスタイリッシュに仕立て上げるセンスも良いです。

三つ巴になる裏社会。
犯罪ビジネスの巣窟のような裏社会での命の取り合いが、ヤクザ映画のようでありながら、裏社会の恐ろしい姿を描く犯罪ドラマでもあり、シリアスな展開が引き締まっております。

子供をキャリーバッグへ押し込めて連れ去るなど、鬼畜外道が際立ったサディストっぷりが冷酷無比な敵役として印象的です。

やや押し付けがましい感動をそそる場面などは安直でしたが、映像センスの良さが際立っていて、韓国のアクション映画では久しぶりに楽しめたので、3点を付けさせていただきました。

ラストシーンの引き撮りで、波打ち際の二人を遠く映してのエンディングは、映画がよく分かっている表現で、わざとらしくなくて良いです。
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