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アオラレのぼのごのレビュー・感想・評価

アオラレ(2020年製作の映画)
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攻撃的に鳴らしてしまったクラクション一つが原因で、ラッセル・クロウ演じるヤバい男に狙われ煽られるレイチェル。
主人公がヤバい奴に目をつけられ周りの人々が殺されていくというあらすじから『ヒッチャー』のようなサイコな話を想像していたけど、思いの外このヤバい男の感情が理解出来てしまった。男のやっていることは決して許されることじゃないし、絶対やっちゃいけないことなのは確かなんだけど。

ところどころで垣間見える男の過去から、この人が元々は真面目でいい人だったことや、色々な出来事が積み重なって壊れてしまったということがわかる。いわゆる「無敵の人」感が強い上、あおり運転という社会問題にもなっていることが題材だから、日常と地続きで誰にでも起こり得ることとして撮られているようだった。
冒頭で男が元妻だと思われる女性を殺しているけど、その時点で麻薬性鎮痛剤を飲んでいるから、癌か何かで余命わずかになったことが引き金になったのかもしれない。強い鎮痛剤を飲んでいる影響か銃撃にもあまり反応が無くて、物理的にも無敵感があった。
レイチェルも離婚協議中で、最初の被害者はレイチェルの友人でもある弁護士。男をレイチェルの友人と勘違いした弁護士が、レイチェルの離婚について「職を転々としているみじめな夫とは離婚して正解さ」みたいなことを話すけど、男は自分のことのように「不倫をした訳でも罪を犯したわけでもないんだろ」と怒る辺りに背景を感じた。

レイチェルの非劇のきっかけ。青信号でも進まない車に苛立ち、クラクションを必要以上に強く鳴らして追い越すレイチェル。すぐ渋滞にあたり、追い越した車と隣り合わせになる。意外にもそのまま争いにはならなくて、車の窓を開けての会話から始まり、男はかなり紳士的に話していた。詳細はわからないけど色々あって精神的に限界がきて妻を殺した後だと思われるから、疲れきってヤケクソ感覚もあったのかもしれない。
「嫌なことが続いて考え事をしていたんだ」と男は言って、謝罪を挟みながらけっこう譲歩していたと思うけど、レイチェルが攻撃的な態度を和らげないからプッツン。既に限界を超えた後だったろうに、更に超えてしまった末の凶行な気がする。「お前に本当の不幸を教えてやる」と男は言うけど、実際にレイチェルみたいな自分の悪い部分を認めず人のことばかり執拗に責める人って、自分に経験が無いから、相手にどうしようもない切実な事情がある可能性をわかっていないんじゃないかなぁ。でも今回みたいに男が予告したような本当の不幸を経験した後は二度と以前みたいに人を責めたりしないだろうし、強くクラクションを鳴らすこともないんだと思う。

正直レイチェル本人よりも、日常から親のゴタゴタに巻き込まれ、仕舞いにはこんな度を越した恐怖体験に付き合わされる羽目になったレイチェルの息子の方が可哀想だった。でも一番の被害者は、レイチェルを反省させるって理由で拷問じみたことをされ、婚約者まで殺されてしまったレイチェルの弟だった。
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