じゅ

アンモナイトの目覚めのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

アンモナイトの目覚め(2020年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

メアリー・アニングという著名な古生物がライム・レジスにいたことも、(メアリーによるイクチオサウルスの化石発掘の件も、)後に地質学会の会長になるロデリック・マーチソンとその妻シャーロット・マーチソンの存在も、全部史実なのか。存じ上げんかった。
で、フランシス・リーの脚本&監督で彼らのフィクションのストーリーを築き上げたと。

映画ライターのよしひろまさみちさんによると、フランシス監督は『ゴッズ・オウン・カントリー』のインタビューで「僕自身が経験したことしか映画にできないんだ」と語ったとのこと。フランシス監督の、田舎の村で同性愛者であることをひた隠す閉塞感の中で育ったという生い立ちを思うと、本作のメアリーと重なる。もっとも、本作におけるあの気丈なメアリーが同性愛者であることを気にしていたかは分からないが。

物語は1840年代、古生物学で様々な功績をあげるも男性優位の社会の中にその名は埋もれ、小さな町で細々と生計を立てる古生物学者のメアリー。彼女のもとに上流階級の地質学者のロデリックとその妻シャーロットがはるばるロンドンから訪れる。うつ病の療養に来たシャーロットを、紆余曲折を経て自宅で預かることになったメアリー。次第に彼女らの間に特別な感情が芽生えて行く。

1度は孤独に閉じこもった(あるいは閉じ込められた)2人が不可抗力によって出会い、やがて自らの孤独の殻を破り(あるいは相手の孤独の殻を剥がして)繋がって行く。『ミッドナイトスワン』に通ずる要素があったかも知れない。
2人の不遇は当時の男性優位の風潮からか。メアリーの才覚や功績は彼女が「男社会ね」と評した地質学会の中で埋もれるしかなく、シャーロットの意思は夫のロデリックの前ではまるで元々存在していないかのよう。波音や鳥のさえずりや風の音といった自然の営みの音は大音量で轟く一方、彼女ら人間の営みの音は小さくささやかという対比を見ても、彼女らが声を上げられず周囲に呑み込まれるしかなかった境遇が伝わってくる。また、シャーロットが海水浴に行ったが荒波に揉まれた上に倒れるという流れは、快活だったらしい彼女がいつしか心の病を患ってライム・レジスに療養に来るまでの経緯を物語っているかのよう。

ついに互いに心を開いた2人だったが、シャーロットがロンドンへ帰ることとなる。見送りに来たメアリーは、去年のこの時期は雪が降っていたが、今は晴れていて暖かいというようなことをシャーロットに言う。彼女と出会ったことによる心境の変化を表した表現か。そういうのいいよね。

やがてシャーロットによりロンドンに招かれたメアリー。シャーロットは自宅にメアリーが住むための部屋を用意しており、メアリーはその一方的な愛を拒絶する。思えばこのシャーロットの行為には、ロデリックが彼女の意思を無視して半ば無理やり療養地に連れてきた行為に通ずるものがある。これまで自らの意思と力で生きてきたメアリーが怒るのも当然か。
というか誰でもギョっとするわな。

シャーロット宅を去った後、メアリーは大英博物館に向かう。その後をシャーロットが追い、2人はかつてメアリーが発掘したイクチオサウルスの化石を挟んで向かい合う。
何を表していたんだろう。もうしばらくしたら何か思い当たるだろうか。
じゅ

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