むらさきの月

アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台のむらさきの月のレビュー・感想・評価

4.5
なんて言えばいいのか…🤣
実話であること自体が「超絶」あり得なさ過ぎるのだけれど
シェイクスピアでさえ
こんな可笑しいヒューマンドラマを書けただろうかと思ってしまうくらい
よく出来た「寓話」だったと記憶しておこうと思う

ベケットの「ゴドーを待ちながら」の
不条理の根幹とその先にあるモノを知りたければ
この作品を観れば一発!、カモ😉

刑務所の囚人たちに演技を教えることになった
スウェーデン俳優ヤン・ジョンソンの実体験をもとに制作された
フランス発のヒューマンドラマは
まず、囚人の矯正目的の文化プログラムとしての題材に
-彼らは待っていることを日常とし、リアルな演技を追求できる…
という理由から、不条理劇の極みでもあるベケットの「ゴドーを待ちながら」を題材に選んだ演出家エチエンヌのセンスがぶっ飛んでる
それも、一般人には無い人生経験は豊富であっても
演劇経験全く無しの素人を6ヶ月後に舞台に立たせ
演じさせるという計画の無謀さに呆気にとられたが
個性溢れる囚人たちの
七転八倒しながらのゴドーへの取り組む姿が 
結構 甲斐甲斐しくて泣けてくる

実話のように本物の囚人たちでなく俳優たちが演じているけれど
その一人ひとりが なんとも個性的で愛おしい面々揃い
かなりの実力派たちで
囚人の演技 ゴドーの配役を演じている演技 
それぞれ見ごたえがあり どのシーンも秀逸
特に印象的だった俳優は
ワビレ・ナビレ 
ソフィアン・カメス
ピエール・ロッタン
特にピエール・ロッタンの文盲の囚人役と
ゴドーのラッキー役の演じ分けのリアルさに感嘆
オマケと言ってはなんだけど
ロシア人囚人…意外とこの囚人は「ゴドー」の芝居に重要な役として登場してしまうのだが
このロシア人が歌うシーンがなんとも
ヴィソツキーを連想させる声がいいんだなぁ〜これが……

この作品 ベケットの「ゴドー」の上演という行為を通して
上演に奮闘する囚人たちの思い
上演を成功させ 自分の置かれている状況を良くしたい演出家
囚人たちを監視する体制側
囚人たちを待つ家族たち
更生プログラムとしての芸術文化の在り方…などなど
様々な側面が見えてくる

不条理劇の金字塔的「ゴドー」を上演を成功させるプロセスが
この上映作品の柱ではあるけれど
それらの視点からこの作品を観始めると
終盤の 「ゴドーを待っていたものたち」が去った後に
「とり残されてしまったもの」たちへ
語りかける演出家エチエンヌの言葉が優しすぎて泣けてきてしまう

笑うに笑えない
単なる感動作では終わらない本作
想像の遥か斜め上行くラストに衝撃を受けた…というより
この作品のキーとなっている戯曲「ゴドーを待ちながら」の作者
サミュエル・ベケット氏が
この実話の顛末を知り「最高の出来事!」と大喜びしていたという事実(こっちの方が衝撃的)を今回知って
親しみを感じている 今 
この瞬間の気持ちを利用し
未だ未踏の聖域と化している「ゴドー」に
手をつけてみたい…と、希望を書いてFine
むらさきの月

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