三郎丸

王将の三郎丸のレビュー・感想・評価

王将(1948年製作の映画)
3.6
昭和の名優阪東妻三郎(阪妻)を押さえるべく鑑賞!(田村正和のお父さんです)

阪東妻三郎が、大正から昭和にかけ活躍した、関西屈指の棋士差し阪田三吉を飄々とした演技で魅せます!

時代背景の説明。
この作品の舞台は、大正時代。
当時の将棋界は、小野五平が「名人」であったが、当時の名人位は、一度襲位すると「死去するまで名人」。その小野が長生きしたため、次の名人の座が約束されていた関根金次郎は、全盛期のうちに名人を襲位することができず…この物語の最後に関根金次郎が名人を襲名するが、このころには主人公に対しても対戦成績はすっかり振るわず、生涯32局戦い、関根の15勝16敗1分という全盛期は過ぎてしまった感…かわいそうです!
ですので、関根は70歳(将棋以前に健康不安を抱えるおじいちゃんですよ…)を迎えたとき、名人位を退くことに。
その後はトップ棋士の総当りのリーグ戦が設定され、その後、前年度の名人に挑戦する現在のシステムへと代わっていく。

その関根金次郎とのライバル関係にあったのがこの物語の主人公、坂田三吉。関根の流麗で物静かな人柄に対し、坂田三吉は慌てん坊、人間味溢れる天才として描かれている。
実は、主人公の出が原因で教養も、社会性も乏しかった。
しかし、そんな主人公ですが関西では屈指の将棋指しであり、彼を応援し、後押ししてくれる人たちがいっぱいいたが、主人公は自分のわがままを通し、情に溺れ、人に愛され生きた、坂田三吉という人間の半生と、妻小春、そして娘の玉江の物語を、関根金次郎との対決を軸に描く。

同時の生活環境(大正から昭和初期)は、現在とあまりにかけ離れており、主人公は麻裏草履を作り、その日暮らしの生活を送ってます…履き物が草履ですから。ピンと来ません!
アスファルトが当たり前な現代ですが当時は土と砂利…環境が違い過ぎます。

主人公は、将棋の腕はあれど、家業が草履一本ですから当然収入はしんどい形です。結果家財道具(仏壇もいきます!)は持出す、狭い長屋の一室は空屋状態。
しかも、朝日新聞主催の将棋大会の会費の二円を工面するため、娘の一張羅を質に置いて出掛ける。妻の小春(水戸光子)はそれを知り今はこれまでと、娘をつれて自殺未遂までされる始末。
それが元で1度は諦めようとする将棋…しかし、
「俺には将棋しかない」
という気持ちを妻は察し、静かに主人公の背中を押す。
当時は、将棋差しだけではとてもとてもメシを食えないシビアな環境。(皆、今より生活に必死でしょうから)しかし、主人公は将棋に賭けます。

そして、実力名声共にナンバーワン、関根八段(滝沢修)と、主人公との勝負もなかなかの緊張感があり、見応えのあるシーンになってました。

この作品の大きな特徴は、
【動きをもたらすカメラ】
カメラを持ち畦道を走り、また勝負のシーンでも動きを求め、勝負が決した際に記者席の書類を風に飛ばして見せたりと、随所にカメラの技が使われていました。

作品終盤、将棋&家族(タイトル王将の意味が分かります。勇気を持って敢えて言います、【餃子の】ではない)に主人公が望んでいない運命が待ち受けているのですが、変に過剰演出にしなかったことが、逆に涙を誘います。

作品通してに言える事ですが、
【年月が経ちすぎている】
【将棋ジャンル極渋】
という部分があるため、若い人はまず手に取りづらい作品かと思います。
しかし、主人公がリアルに汗しての熱演、古いながらも観客を楽しませるための工夫はしっかり盛り込まれており、古さをマイナスに見てもなかなかに楽しめる作品になっていると思います。
但し、誰も喋らない静かなシーンになると、古い映画特有の
「シューー」
というノイズは観ていて思わず苦笑い…
三郎丸

三郎丸