平野レミゼラブル

ねばぎば 新世界の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

ねばぎば 新世界(2020年製作の映画)
3.2
【令和の時代にTHE昭和!!旧世界やない!新世界や!!】
令和の時代だってのにこの隠しようがないThe昭和っぷりよ!!
まず、赤井英和15年ぶりの主演作って時点でまた凄いんですが、全体的なノリ、物語、台詞回し、展開、ポスターに至るまでむせ返る程の昭和臭。正に60年代の侠客モノを現代に復活させたかのような作風でして、公式ページでもその頃の大映映画、勝新太郎・田宮二郎の『悪名』シリーズを彷彿とさせる…といった形で触れております。
そして本作における勝新太郎と田宮二郎が、赤井英和と上西雄大演じる勝吉&コオロギコンビ。2人はボクシングの師匠から教わった「Never give up(ねばぎば)」を合言葉に、大阪は新世界に巣食った悪党を拳一つで叩きのめして世直しする単純明快なお話です。

もはや話の筋は単純というレベルではなく、かつて昭和の時代にヤクザ狩りをしていた勝吉&コオロギコンビが令和に再会して、今度は悪徳カルト教団をブチのめす。たったそれだけの話です。
完璧な勧善懲悪であり、変に裏があるとかそういうのもなく、良い人はひたすら良い人だし、悪い人はひたすら悪い人。被害者転じて加害者になってしまった人もいるけれど、罪を憎んで人を憎まずの原理で許したり、改心していったりの流れも徹底しているので深く考える余地もないです。
その代わりに詰め込んでいるものこそ、新世界の下町に流れている義理と人情、そして親子愛といった小ッ恥ずかしくなるくらいにベタなもの。昭和の息吹に満ち溢れています。

そのためあらゆる部分が古臭く映るし、実際何もかも古臭いんですが、それでもそんなにネガティブに思えないのが本作の強みです。
なんでしょうね、確かに展開は義理と人情というよりご都合主義も目立つような部分に溢れているし、話運びの迂遠さとかアクションシーンで漂うもったり感とか気にならなくはないんですけど、それこそ古き良き雰囲気として楽しめちゃうんですよ。
昭和30~40年代の空気が画面いっぱいに常に広がっており、あの時代特有の独特な熱量にあてられたならば、もっと自分も脳ミソを昭和にして楽しまなくちゃ…!くらいに適応してしまう。昭和の時代に生まれていない僕ですら、そんな感想になってしまうくらい魂で「昭和」を感じてしまいましたからね。『Always』なんて目じゃないくらいに昭和なんですよ。

昭和の雰囲気を徹底してはいるものの、昭和の倫理観は排除した部分も安心要素の一つかもしれない。
義理!人情!親子愛!最高!!ってノリで話は推進しますが、それを絶対の価値観として押し付けたりはしてこないんですよね。あくまで、現代じゃダサいとか言われるかもしれない価値観だけど、それでも俺は素直に良いものだと思うからその価値観を好きって主張するねっていう形で発信している。要は昭和の空気をこれ以上なく令和の時代に適応させて漂わせているのです。
まあ、そうは言っても赤井英和を熟女と若い娘が取り合ってキャットファイトを繰り広げるとかの一部のシーンなどは、観ていて気恥ずかしさの方が勝る「昭和な展開」でしたが……まあちょっと小ッ恥ずかしいくらいの空気感こそ「昭和」とも思うんで、これはこれでアリですが。

正直なところ、昭和抜きに溢れ出る低予算っぷりや、スポット出演する菅田俊や小沢仁志の存在も含めてどちらかというとVシネマ的な雰囲気は強いですし、「何故令和の時代にこんな昭和の代物を!?」って気持ちも少なからずありました。
しかしですね、逆に考えると令和の時代の、それもコロナ禍という未曾有の大混乱期に、こんなにも単純娯楽って感じの作品を劇場公開してくれるっつーのがもう痛快極まることじゃないですか!
色々考えすぎになってしまう今の時代こそ、古臭いの上等でここまで真ッ直ぐと娯楽映画を貫いてくれる作品が必要とも思うのです。


試写会後は主演の赤井英和さんや、そんな彼を主演に据えて「憧れの赤井さんに相応しい昭和の匂いがする娯楽作品を意識した」と仰せられるバディ兼監督・脚本の上西雄大さんらが集ってのトークショーも開かれましたが、やっぱりそこでもどこか心地好い娯楽映画の余韻に溢れていて最高でしたね。
朴訥とした人柄で真っ直ぐ素直に話される赤井英和さんと、そんな彼に本気で惚れ込んで映画を創っていたんだなと感じられる上西監督の熱意を直に感じられ、大変ほっこり致しました!