銀色のファクシミリ

空に住むの銀色のファクシミリのレビュー・感想・評価

空に住む(2020年製作の映画)
3.3
『#空に住む』(2020/日)
劇場にて。様々な偶然が重なり、なにに追われるでも急かされるでもない生活がはじまった女性。肩書と責任をなくした「大人のモラトリアム」。愛猫と暮らしながら、まるで雲のように流れる自分を見つめる118分の物語。

感想。家族全員との突然の死別、縁者の好意で提供された高層タワーマンションの住居、彼女を慮って仕事の負担を緩めた職場。そして「男も仕事もたくさんですわ」と呟く主人公、小早川直美(多部未華子)。娘・恋人・担当者・ご近所。色んな肩書を失くし、人生に突然現れたフラット、凪の時間。

その立場になったとしても、多くの人はあれこれ悩む前に生きるため働かなければならない。しかし直美は忙殺される事柄を全てなくし、文字通り地に足のつかない高層マンションの一室で、自分と向き合い続けることになる。自分の本当と、自分の嘘について。

直美は、新たな環境の中で周囲の人々の「本当と嘘」に触れる。そしてある「別れ」に自分の本当と嘘を見出す…とつながるのですが、とても薄味。しお味とかカレー味とはっきりしたものではなく、「ほのかに柚子が香りますね」みたいな薄味。

プロットを因果で繋いでいない。Aが起きたからBが起きるというような分かりやすいものは少なく、登場人物たちの諸相と、直美のわずかな気持ちの揺れを並べて、ほのかにテーマを浮かべる作品。ラストの直美のある仕草で「モラトリアムの終わり」を告げているのかなあ、と香りました。好きか嫌いかで云えば好き。でも感想はとても書きづらい。感想オシマイ。