かつきよ

アイの歌声を聴かせてのかつきよのレビュー・感想・評価

アイの歌声を聴かせて(2021年製作の映画)
5.0
文句なしの満点!
吉浦監督作品の真骨頂。
吉浦監督の描くAI✖︎青春のストーリーはやっぱり大好物。
実地実験として学校に極秘にAIロボの女の子が送り込まれてきて……その子がとんでもなくぶっ飛んだ子で、とてもじゃないけど五日間もロボだって秘密を隠しと失せると思えない……
なんたって、当然歌い始めちゃうんだから!なになにどういうことなのー!?というSF。

単純にSF作品としてはイヴの時間の方が面白かったと思うけど、ライトにも楽しめる青春群像劇としてはアイに軍配。
アニメだから、AIだからとご都合的に誇張している部分や、見せ方のバランスも全て計算されているのが伝わります。テーマがストレートで単純で、描きたいことが明確だから、アニメーションや演出に全力投球して、力技でメッセージをひたすらに訴求してくる感じ。
といいつつ、さすが吉浦監督、細かい演出や伏線は作り込んで気を配ってくれていて、シオンちゃんのストレートな「ご都合」に対して、それ以外の要素は徹底的にリアルで細やかに描いてくれてますので、物語に厚みがあって、ちゃんと説得力もある。本当にいい映画。

一番の特徴は、「歌」をキーワードにして、まるでミュージカルのような演出をガチで取り入れたところ。
ただ、ミュージカルが無理やり組み込まれているわけじゃなくて、詩音ちゃんが歌う理由も、必然性も、伴奏やライトアップの演出とかも、ご都合なだけではなくてちゃんと物語の中の自然な流れとして理由付けて描かれているのがよかったです。
突然歌が始まって、理由もなく不思議な力でスポットライトが当たったり伴奏が始まったり、みんな知らないはずの歌を突然歌えたり……それが終わると何事もなく物語が進む。そう言うタイプのミュージカル、理解はできるけど得意ではないので……
そう言う部分の理由付けをちゃんとしてくれるあたりが吉浦監督の好きなところ。
ミュージカルも、単にやりたいから!と言うアイデアにとどまらず、ちゃんとミュージカルがなければ成立しない作品に仕上がってるし、アニメーションや演出、効果も、ミュージカル要素を最大限に活かせるように作り込まれてる。
これだけ理詰めで作られて、クリエイティブで、徹底されて作られるエンタメアニメ映画なかなか見られない。正直今まで見てきたあの映画とかあの映画とかはなんだったんだ……と思うようなコンテンツの充実具合。自分がクリエイターだったらこんなにこだわり抜いた作品作れる気がしない。

徹底されたアニメーションと、アニメーションだからこそできる演出で、ポップに、ムーディーに、時にはド派手で豪華に、歌のシーンをすごーく丁寧に仕上げてくれてるので、ミュージカルシーンそれだけでも見る価値有り。

きいかんな先生のキャラデザもめちゃくちゃにいい!!はっきり言ってど好みと言わざるを得ない。女の子はかわいいし、男の子とかっこよくて魅力的。その魅力を全力で再現するアニメーター班の仕事、素晴らしすぎます。

芸能人起用も多いキャスティングも、キャラクタや世界観にピッタリ。
特に詩音に関しては、土屋太鳳さんの声かわいすぎるし、歌も当然ながらうますぎる
これ以上のキャスティングないでしょう

キャラクタが突然歌い出す系、共感性羞恥に苛まれて苦手だけど、AIだからこそのストレートさと、土屋太鳳さんの有無を言わさぬ歌唱力で黙らせてくる感じ。










以下、ネタバレ有り


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ゴッちんとアヤに関する恋愛のいざこざは、ストーリーとして重要だったからまあいいけど、ちょっとラブストーリーとしてはセンチメンタルすぎて臭かった
痴話喧嘩みせんなー笑

でもそれ以外は全部好き
杉山紘一郎ことサンダー君、直向きだしムードメーカーだしかっこいいし可愛いしで一番お気に入り
組み手のシーン大好きなんだけど、あんな密着したら詩音ちゃんのこと好きになっちゃうでしょ!って思ったら、本当に好きになってていじらしい

ラスト告白のシーンはきゅんきゅんした!!

詩音ちゃんには、幸せ……の次に「愛」の感情も是非知って欲しかった……そしてサンダーとラブラブになる未来も見てみたかった……😭

ムーンプリンセスも、実際どう言う話なのか気になるなぁ
明らかにディズニーオマージュだけど
王子様が2人いる=結婚や恋愛的な成就がハッピーエンドではない、らしいけど、最後に秘密が明かされるというムーンプリンセスのオチってなんなんだろう……

詩音の正体は、よく考えれば暴走するストーカーAIともとれなくはないけど、裏を返すと人間ではあり得ないほどの一途な純真。人を幸せにしたいと言う善意の願いの塊で、だからこそ詩音がサトミを見守り続けていたと分かるシーンは泣ける。
人間が同じ役割を持つと途端に病的な印象になり、素直に怖くなったり、重く思えたりするけど、逆にこれがAIだから素直に純心として描き切れている、素直に受け取れる余地が生まれていると思う。吉浦監督自身がインタヴィーで言っていた事だけれど、そこまで計算して、開き直ってAIを題材にしているあたりが、彼がAIものを何十年も前から描き続けてきた手腕と、確立された絶対的なセンスだなと思います。ここ数年でAIものを意識して脚本を書き始めたようなクリエイターなら、どんなプロフェッショナルでもここまで開けた演出はできない。できたところで、独特の繊細さとは共存できず大味になるはず。吉浦監督はやっぱり神

ラスト、AIたちが自由意志を通して、詩音に協力してくれるシーンも好き。
監督自ら語っている通り、農業ロボットが二度見するシーンがさりげなく背景に描かれていたり、最後は詩音の光を見つめていたりするシーンで、それとなく「AIの自由意志」を物語っている演出が憎い。明らかに違和感がある演出だけど、AIはAIと盲目的になっていると、なかなかこう言った表現に違和感を持てない。うまいなぁ
物語序盤〜中盤にかけて、詩音ちゃんがAIロボットの事を「友達」と称したり、「手伝ってもらった」と語ってるのは、ラストの展開でAIを利用するのではなくて、自発的に助けてくれる展開の伏線だったんだなぁ。

別れの演出も、悲しさはなくて、前向きでラストにふさわしい、まるで解放されるような表現はぐっときます。ハッピーエンドの描き方として、なんて美しいんだろうか
ただ、サンダーだけは可哀想なんだよなぁ……
幸せに……なりたい……😭幸せにしてあげて……
人工衛星でも付き合ってあげて😭

本当にいい映画
何度でも見たくなる
かつきよ

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