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映画 太陽の子のsilentのネタバレレビュー・内容・結末

映画 太陽の子(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

2021.8.17改変

とても静かながら、登場人物たちの
心象風景がありありと浮かぶ。
どのキャストも本当に素晴らしかった。

柳楽優弥さんが、修という普通の青年
としての人の良さと
狂気じみた科学者としての一面を
ごく自然に演じ分けていた。
難しい役柄ながら
押し付けがましくないのが好印象。

家族と幼なじみの優しさに癒され
ながらも「自分が今、死ななければ
その価値を失ってしまう」と
思い詰めるように「死ぬのが怖い」
のに「死ぬ」事を結果的に選択せざる
を得なかった裕之。
その繊細の心模様を大袈裟ではなく
静かに、時に荒々しく表現していた
三浦春馬さんも素敵だった。
「目は口ほどに物を言う」
彼の『目で魅せる演技力』は必見だ。

時に厳しくあしらいながらも、2人の
幼なじみを温かく見守り、戦後の
新しい日本で自分は何が出来るか、
先見の明を持って考えてた世津。
あの2人や石村家だけではなく
観客側にとっても程よいバランサー
となってくれたと思う。
有村架純さんが醸し出す雰囲気が良い。

そして戦争で夫や息子を失うという
悲しみをほとんど感情的に表さず、
その一方で大きな愛で子供たちを
包みこむように接してきた強い母を
演じた田中裕子さん。
無表情なのに、修に物凄い怒りと
失望感を滲ませる演技に、思わず
背筋がゾッとした。

この物語は完全なるノンフィクション
ではない。
それでも同じような、或いは更に
過酷な状況で「お国の為に死んだ」
又は「必死に生き延びてきた」人達
が大勢いた筈だ。

私たちは今、そうした先人が築いた
土台の上でのうのうと暮らしている。
コロナだったり、それぞれの事情で
生きづらさを感じている人も沢山いる
事だろう。
しかし、「如何なる理由があろうとも
戦争は絶対に起こしてはならない。
戦争がもたらした幸せなど、ありは
しない。普段は考えもしない、
かつての悲劇を私たちは忘れては
ならないし、このような映画などの
作品を通して後世に繋いでいく事が
大切では?」
そんな思いを抱かせる作品。
ドラマティックな演出ではないから
こそ、伝わってくるリアリティー。

原爆投下後の写真など
恐ろしい描写もあるが、
『戦争の悲惨さと現代の平和な日本
で生きていられる幸せ』を
この作品を通して改めて教えて
もらった気がする。

最後に流れる主題歌も、まるで
書き下ろされたのかと思うほど、
映画の余韻を深めて更なる涙を誘う。

マイナス0.5はエンドロールのある
場面のみに拍手をする人に対して。
作品そのものが素晴らしいだけに、
あの拍手で雰囲気をぶち壊された
ような気分を覚えたからだ。

2021.某日
この状況下で何度目かの鑑賞。
戦争の語り部となる人達の高齢化、
今の私達の暮らしとは切っても
切れないテクノロジー。
私達の多くは戦争の怖さを知らず、
テクノロジーの恩恵を甘受して
きた。
しかし、ラスト間際の修と
アインシュタインの対話や
タイトルバックがエンドロールの
前に現れた時に思った。

「このストーリーは戦中戦後の
悲しい過去の物語ではない。私達も
身をもって考えなければいけない、
現在進行形の話なのだ」と。
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