Anima48

オールドのAnima48のレビュー・感想・評価

オールド(2021年製作の映画)
3.8
海が好きで、浜辺を歩くと枯れた流木や貝殻が流れ着いている。これはみんな何かの亡骸でよく考えると浜辺には、死が溢れているのかもしれない。浜で生まれて揺籠のように育つ生き物も多いので、死と再生が環になっているのだろうか?

シャラマン監督というと風変りなプロット・意外な展開というのを期待してしまう。今回に関して言えば、30分で1歳ずつ歳をとる浜から出られないというもので、これは宣伝でもかなり謡っていた。どんな人間でも歳をとる。人はみんな受け入れていることだけど、明々後日までに100歳超えるとなると話は別。脱出への試みや老化の進み具合など“今一体なにが起こってるんだ!?”という状況が閉ざされた浜辺で進んでいく。ビーチが本当に綺麗でそこから離れることはなくずっと話は進むので、結果的にものすごく心地よい光景をずっと見ていられたことになる、...南国にいきたいな。

老いるといっても、”最近肉より魚の方が好きになった”とか”若いアイドルがみんな同じに見える”、”カラオケで最近の歌が歌えない”とか生易しいものではなく、ちょっと目を離すとサンタクロースをまだ信じてそうな子供が、お金しか信じられないような若者に育っているスピードなので目まぐるしい。いや、あの子達は最後まで素直な良い姉弟だった。凄まじい老化をメイクはもちろん演出やカメラワークで見せてくれる。

老いって”衰える自分とどう向き合うか”と“若さをどう保つか”という反対の態度どちらかで臨む問題、それぞれの人物がそれを反映した運命を辿る。

浜辺にたどり着いた若い母親は自分の美しさに自信を持っていて、それは自分の存在理由にも見える。若さにこだわる彼女には死の恐怖よりも美しい自分が崩れていく恐怖が上回っているようだった。容貌が衰えきちんと化粧しろと夫から詰められた彼女は人目をさけて洞窟の中に身を隠す。そして最後の言葉は自分を見せないように“明かりを消して!!”だった。子供を失い夫婦の精神的な絆も失うこの一家の末路はとても寂しい。全て失った彼女に残ったのは亡くした美貌への執着だったのかもしれない。未公開シーンの中で“私はまだ美しい、子供を守ってやれる”と自分を鼓舞していて、美貌は自分の生存能力と捉えていて、ひょっとしたら今の生活を得るために美貌がかなり役立ったかもしれないし、その美貌を遺産として娘に渡すためにかなり気を付けていたようだ。(スタイルを維持するために、背をまっすぐにするように娘を諭すシーン、彼女の体質もあっただろうけど)現状からの衰えに囚われてしまった老いのネガティブさを引き受けて、とてもさみしい最期だったと思う。

死を意識するのは、何歳からだろう?老いの初期、子供達にあまり恐れを観て取れない。死への理解度からか、肉体がどんどん成長しているからか、むしろ力が増していることで恐怖が薄れているのかもしれない。また未来と過去への意識の差もあるだろう。夫は保険関連の仕事についていて死亡率などの確率、つまり未来について話題にする。反対に妻は博物館で働いているので、過去の事に常日頃から思いを巡らせる。老いの実感が無かろうが、どれだけの選択肢と期待値を算出しようが、そして過去に何があっても、2日以内に100%彼らは死ぬ、コンマあたりの余地もない。老いも若いもこれだけ短い間に死ぬという尋常じゃない事態に全員が死に対しての心の距離が縮まったようだ。

そして夫婦は急激な加齢で耳や目が弱くなり、諍いや離婚などの過去が曖昧になって、お互いを許しあう。(時がすべてを解決してくれるとはよく言ったもので、言い出しあぐねていたような問題がこの海岸の力でさらっと解決していた。)もう朝日を見る時間も残されていない夫妻には未来もない。そして曖昧さは恐怖の実感も優しく包んで、彼らに残ったのは家族がすべて集まったこの現在の時間だけ。家族を解体する離婚も、過去や未来への意識のばらつきもなくなり、家族が許しあい慈しみあう残り少ない現在のただ一点にしっかりと結びつきあった家族全員が佇んでいる。彼らは旅立つけれど、家族の繋がりはしっかりと再生したんじゃないだろうか?

子供らにしても自分達が2日後には死ぬのはわかっているので、取り残される喪失感への惧れもなく見えた。老いや衰えというのは許しや寛容さも僕らに与えてくれるじゃないだろうか?“ピンピンコロリ”(あまり好きな表現じゃないけれど)というのを体現するように、波音がする夜に静かな浜辺で子供達に見守られて彼らはほぼ一緒に逝く。美しいこの情景をみることだけでも観てよかったと思う。
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