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鈴木さんのkuuのレビュー・感想・評価

鈴木さん(2020年製作の映画)
3.5
『鈴木さん』 映倫区分 PG12
製作年 2020年。上映時間 90分。
劇場公開日 2022年2月4日。
お笑いタレントのいとうあさこが主演を務める異色のディストピア映画。
監督は、自主制作映画『ぴゅーりたん』が第31回ぴあフィルムフェスティバルに入選した佐々木想。
共演に佃典彦、大方斐紗子、保永奈緒、宍戸開ら。

現人神である『カミサマ』を国家元首にいただく、某島国のとある町。
少子化にあえぐその町では、市民投票により、45歳以上の未婚者は市民権を失うという条例が制定された。
市民権を剥奪された者は町を出ていくか、軍に入隊してお国のための強制労働に就くか、いずれかを選ばなければならない。
町で介護施設を営む未婚のよしこは、45歳を目前に控え、排除される不安を抱えながら日々を過ごしていた。
市民権をあきらめて町を出るという選択もあるが、施設に入居している老人たちを見捨てることはできない。
そんな中、施設にひとりの身元不明の中年男性が迷い込んでくる。
よしこはその男と結婚することを考えるが……。

最初は軽いコメディが物語を支配しているように見えた。
しかし、佐々木監督の映画は実際にはかなり深いモンを含んでおり、多くの制度や傾向を微妙に、しかし、鋭い方法で批判していた。
どの壁にも貼ってあるような化粧をした男の嘲笑的な写真を通して、最初に気づくのは、実際には一般人がめったに目にすることのない天皇という概念。
同時に、天皇が神とみなされることは、宗教の概念全体を嘲笑しているようにも見える。
特に、映画の中の人々が、存在しないかもしれない存在に由来する規則に従い、それを尊重しているように見える点では。
奇妙な登場人物や、枯淡なユーモア、少々シュールな前提を持つ佐々木監督の長編デビューの今作品を見れば、池田亮監督の作風を思い浮かぶ。
、池田監督は『美しく青きドナウ』を除いては、やや抽象的なコメントに終始しがちやし、今作品の佐々木監督は、日本や、右派が覇権を握りつつある世界各国の社会政治状況についてのメタファーに満ちた、より地に足のついた風刺を披露している。
単に "神 "として知られる生ける神(現人神)が率いる島国には、美しく輝かしい都市が存在する。
少子化のため、市は44歳以上の未婚者は市民権を失い、国から追い出されるという条例を出す。 まもなく45歳になる独身のよしこは、廃墟のモーテルで老人ホームを経営している。
この条例が施行されると、彼女は強制連行されるか、戦争に駆り出されるのではないかと心配する。
ある日、以前は自転車で街を走っていた正体不明の中年男が、そこに住む気の強い老婦人に連れられて家にやってきた。
さっそく、よしこは彼を探し求めていた希望と見なし、スズキと名乗るその男と結婚しようとする。
一方、政府は20年間行方不明だった神様を探していた。
さらに厳しいのは政治家に対する批評のようで、ここでの指導者(宍戸開が見事に演じている)は、意味不明な法律を通したり、国が直面するすべての問題を外国人のせいにしたりすることで、必死に自分の権威を保とうとする偽善的な戯画として描かれている。 
その一方で、佐々木監督の表現方法は愉快で、街の年配の女性たちがギリシャ悲劇を嘲笑うかのようなスタイルで頻繁に歌い、"踊る "。
少子化に悩む国は、現在の日本と明らかにパラレルで、一方、政府が国民に子供を作るインセンティブを与えるやり方は、実は伝統的な保守/右派の『国/宗教/家族』の三位一体に従っており、この3つのどれにも参加していない者は除け者であるとみなす。
よしこは、子供がいないことで仲間はずれにされる一歩手前で、このコンセプトを肌で感じているが、佐々木はさらに踏み込んで、『顔がわからない人(振り当て番号がないもの)』を虐待する人々を何人も登場させ、国の移民政策についても直接的にコメントしている。
多くの若者がそのような人々に暴力を振るうということは、ファシスト集団の行動を反映している。
一方、彼らが自分たちの行為をソーシャルメディアの動画で配信し、それが人気を博しているという事実は、SNSや、それによって行動や個人が豊かで有名になる方法に対するもうひとつの批評と云える。
日本が常に均質な国であることは、前述の政策によるものでもあるけど、今作品では嘲笑の対象にもなっている。
佐々木監督は、特定のコメントに対するかなり滑稽なアプローチとして、すべての男性が同じように見えるように髪にポマードを塗ることを提示している。
最後に、たとえ神が存在したとしても、もう誰もその存在を認めないというのも、最近の宗教のあり方に向けたコメントであり、イエスの物語とも通じるところがある。
しかし、佐々木監督は、やや長めのシークエンスを唐突にカットするなど、独自の編集によって、映画全体を通してエンタメ性を保っている。
よしこ役のいとうあさこの演技は意外にも自然で印象的でしま。
また、鈴木さん役の佃典彦も面白い。
彼は常に、周囲で起きていることに完全に迷い、当惑しているような態度を示している。
岸建太朗の撮影は、ディストピア映画を思わせる殺伐としたトーンを設定し、これもまた物語にふさわしい選択かな。
日本の映画監督・豊田利晃がちょい失念したが何やったかのインタビューの中で、彼は日本をファシズムの国だと考えていると語っており、その後の彼の映画はこの意見と彼の怒りを最も雄弁に映し出していた。
佐々木想監督も同じような感情を抱いているようやけど、それを表現するためにまったく異なるアプローチを選んだだけであり、結果的には同じように雄弁や。
タイトルと映画ジャケットを見ただけなら、インディーズ邦画の馬鹿げたノリで作ったコメディ作品かと思てたが、意外にも風刺をふんだんに盛り込んだ作品で個人的には面白かった。

『ワタシは~この国のカミサマで~す』
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