じゅ

ダーク・アンド・ウィケッドのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

うーん、ぱっと見は、せめて知的な雰囲気を纏おうとしたバカってかんじの印象を受けたけどどうだろ。ぱっと見はだけど。
人形とか音とか囁き声とか巧みな暗闇の使い方でめちゃめちゃいい具合に雰囲気つくってるって思ったけど、最終的に無駄にでっけえ音出して安いびっくりに振っちゃったかんじ。まあそういやタイトルも超雑に言えば「暗闇!邪悪!」ってなもんだったしな。
まあでもたぶんそこまで好感持てなかった原因は主に俺が話について行けてなかったかもしんないところにあるんだろう。意味ありげな描写多かったし。


右後脚を食いちぎられた山羊からの食い荒らされた山羊の死骸が散らかってる画は良かったな。あの画は本当に好きだ。ただあのシーンのおかげで頭の中が掻き回されてる。
ルイーズとマイケルの母の日記で悪魔絡みの話だとわかるから、母と父が育ててた山羊たちって悪魔的存在の比喩と思っていい気がしてる。悪魔っぽい儀式に登場しそうな山羊の頭蓋も屋内に飾られてたし。
作中では父は既に死んでいるかのような言われ方をしていて、母はその父が言った通りに山羊の世話をしていたと言う。もしかしたら死んだ云々は父が寝たきりになる前から既に悪魔に乗っ取られていて、悪魔として母に山羊を世話するよう言っていたのかも。母は自らを愚かだったと言っていたけど、もしかしたら父の言う通り山羊の世話をしたことに対してかもしれない。
ただ、その山羊が惨殺されたとはいったいどういう...?

例えば、ルイーズやマイケルら人間として描かれた存在が視聴者から見た悪魔的立場で、父に憑いていた悪魔らしき存在が逆に視聴者から見た神とか天使的立場だった?母や看護師を恐怖に陥れた囁き声も実は「イエスはあなたを愛している」みたいな内容だったし。
否、母は怪異を恐れて十字架を集め、父を看病していた看護師はキリストが描かれたキャンドルを使用していた。なお、うなされていた父の口から蜘蛛が出てくる描写があったけど、キリスト教では蜘蛛は快い存在ではないそう。
じゃあ実は悪魔視点みたいな『ヘレディタリー/継承』的な変化球投げられてたってわけではないか。

そんなトリッキーなこと考えんでも、山羊とキリスト教(より古いかも)の関係をググったかんじ、アザゼルっていう悪魔(堕天使?)が関係してそうかも。あら、なんか面白くなってきたな。
なんやら旧約聖書の◯◯記とか◯◯書でいろんな描かれ方をしてるっぽいけど、山羊ってアザゼルに生贄として捧げられるらしい。とすれば食い荒らされた山羊の死骸たちはアザゼルが食らったと思えばいいんだろか。
加えて旧約聖書偽典のエノク書だと、アザゼルは人間に知識を与えたんだそう。というかアザゼルは堕天する前は神の命で人間を監視するグリゴリなる天使集団の指導者的ポジションで、そのグリゴリのみんなが各々人間に知識を与えたとか。特にアザゼルが与えた知識というのは、武器防具とか化粧法とかとされるそう。ある朝ルイーズが起きたら唇とか頬とかに口紅を無造作に塗られてたシーンがあった。口紅は寝たきりのはずの父の腹の上に置かれていた。これはアザゼルが化粧を教えたってのに由来してるのかも。
同じく旧約聖書偽典エノク書では、アザゼルは大天使ラファエルにより暗闇に幽閉されたとのこと。本作の怪異がけっこう闇に潜むかんじだったのはそんなエノク書のストーリーから来てるのかな。
ちなみに、「偽典(ぎてん、英: Pseudepigrapha)とは、旧約聖書の正典・外典に含まれないユダヤ教・キリスト教の文書である。」ってWeblio辞書に書いてた。てことはキリスト教が土台にある本作のお話の解釈にエノク書ってのをヒントとして持ってくるのはそう的外れなことでもなさそう。


母の指ちょんぱは豪快で凄かった。『樹海村』でも1本も切り落とせなかったのに、このおかん人差し指と中指と薬指の3本一気に行ったった上に細切りにしてたぞ。
それはそれとして、すっごい幼い頃の記憶で、指を家族内の立場に置き換えて呼んでいた覚えがある。例えば親指は「おとうさん指」と教えられたと思う。
俺の記憶が正しく、かつもし米国でも一緒の割り振りだったら、人差し指は「おかあさん指」、中指は「おにいちゃん指」、薬指は「おねえちゃん指」になる。中指と薬指はもしかしたら逆かも。だとしても、この指ちょんぱのシーンは母(おかあさん)、マイケル(おにいちゃん)、そしてルイーズ(おねえちゃん)の悲劇を暗示する描写だったのかな思う。
暗示なく殺されたリチャードだったかと看護師さんはどんまい。次の出演作ではきっと生きよう。

ルイーズと同名の娘を亡くしたシカゴの神父は何だったんだろう。彼曰く同名のみならず声まで似てるとか。
ルイーズだけ陽に死が描写されなかったけど、この電話の会話で以ってルイーズも死んだと言っている?


7日間ってのも意味ありなんだろか。例えば『ニーチェの馬』なんかでは、神が天地を創造した安息日含む7日間に準えて、7日間で全てを失う流れを描いているみたいな解釈をどっかで見たような。
作中ほぼずっと風車がギャンギャン回ってた。たしか終盤中の終盤、逃げ帰ったマイケルが妻と娘の死体の幻を見せられて自殺した後くらいからは風車が止まっていた。たしか7日目だったと思う。
アザゼルは、方角で言うと南、火風水地の四元素で言うと風を支配するそう。(ちなみに天使で同じのを支配するのはウリエルらしい。)風車が回っているということは風が吹いているということ。すなわちゴリゴリにアザゼルが働いてたということと言えるかも。その風車が止まったとはつまり、アザゼルがやることをやり切って安息したことを意味しているかも。
安息日と言ったら個人的に土曜だと思っていたけど、本作は日曜に設定されていた。土曜が安息日というのは主にユダヤ教の話で、キリスト教ではキリストの復活の日にちなんで日曜を安息日とする宗派が多いらしい。それ故の月曜始まり日曜終わりか。


総合すると、本作で描かれたのは、堕天使アザゼル(魔王サタンと同一視される場合もあるらしい)の復活と、かの者による天地創造ということになると思う。え、おもろ。

なんか初めはすげえ良い雰囲気醸し出してたのに、やっすい大音量びっくりに振っちゃって一旦は失望してたけど、視聴後いろいろググってみたら結局めちゃめちゃ興味深い話だった。
じゅ

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