かつきよ

ドライブ・マイ・カーのかつきよのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
3.0
言わずもがなの話題作。
視聴する前は全く知らなかったのですが、原作は村上春樹先生なんですね、、、。個人的な好みの問題で、村上春樹さんは全く受け付けないので不安でしたが、村上春樹先生のテイストやコアのような風味は感じつつ、「これは濱口監督による作品だな」という印象が強く残る作品でした。
というのも、原作ありきでそのストーリーを立てる作品、というよりは、原作はあくまで種火であって、そこから枝葉を伸ばし開花させた火花を見ているような、新しい価値や感覚を与えてくれる作品だと感じたからです。

実際これだけ話題になるのも納得のクオリティで、脚本は緻密に組み立て上げられているし、そこに最適な俳優陣の唯一無二の演技、語り、間、存在が乗り、この映画でしか感じることのできない感情、この映画でしか触れることのない価値を投げつけられる大作でした。

こんなにもテーマ性というものを内包し、繊細に人の心、人との関係を徹底してて描き出した作品にはなかなか出会えないと思います。
とはいえ、正味な話ですが、好みか好みじゃないかでいえば、ほとんど好みじゃない作品でした。
面白くないわけではないけど、好きではないです。
私はエンタメ映画が好きなので、その点でこの作品は例えるなら高密度な純文学の様な作品でした。

この映画がなぜここまで評価されてるのかわからない、という意見が多いですが、それは映画というジャンルが一括りにされているせいだと思います。
例えば、ライトノベルと純文学は同じ活字本ではありますが、提示する価値、内包する面白さのエネルギィはベクトルや色が違っています。映画も同じ様に、媒体は同じでも、色やベクトルが違う作品がある一方で、「評価された映画」というだけでひとくくりにされがちな傾向があるなと思います。
ドライブマイカーは、先程も例えた通り、かなり純文学的な作品で、面白さの種類が私にはかなり硬派に感じられたのです。
高評価の映画=エンターテイメント性の高さと単純に割り切ってしまうと、この映画は「どこが面白いの?」という作品になるのだと思います。

教養として話題作に触れられて、個人的にはそこそこ価値のある時間を過ごせたとは思います。ただ、ある程度は覚悟していたものの、鑑賞してみると思った以上にハマれず、いつもは楽しみにしている考察や解説サイト巡りも惰性や義務の様に感じてしまい、感想をつけるまでに2週間以上もかかってしまいました。

私がエンタメ映画好きな属性ということもあると思いますが、それでも純文学的な映画が全く受け付けないわけではないので、、、
ここまで感想が出てこないのは、やはり原作者様との相性の悪さもあるのでしょうか。

とにかく、エンタメが好きな方には素直にオススメできない映画です。純文学好きな方、映画における画作りや表現、劇中劇と本作品の脚本のパズルのような噛み合わせ、そういった1芸術作品としてのクオリティ面でのアカデミックさを楽しめそうな人は、ハマると思います。




以下は、ネタバレ有りでつらつら感想を












※ネタバレ有り

















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◆性的なパワー

この映画で一番肌に合わない部分。
性的な表現(特に日本的な独特の湿気を孕むもの)はそもそも苦手で、なかなか受け付けません。だから、性的なパワーが物語の根底に根を張る村上春樹先生が苦手なのですが……。

性的な表現全てを毛嫌いしているわけではなく、別にラブシーン反対派というわけでもないのですが……
あってもなくてもいいスパイスとか、ただのラブシーンとか、そういうレベルではなくて、この映画では、性的なパワーが物語の核というか、大事な要素として組み込まれていて切っても切り離せない一部なんです。
それが、嫌らしいわけではなくて、下品なわけでもなくて、なんというか、大々的に露出しているわけではなくて、逆に日常として組み込まれている、現実と地続きな感じなんですね。それが個人的には心底苦手で。
村上春樹節だなと思うのですが、なにか性的なエネルギーを神聖視している様にも感じられて、それが素直に苦手です。

どちらかといえば物語の中にはそういったリアルさが邪魔だと思ってしまいますし、私の日常的な価値観からも逸脱しているので、どうも引き込まれませんでした、
否定したいわけではないのですが、とにかく合わないというのが正直な意見です

むしろオチに使うにつれてそういう性的なパワーによる支配が薄れていったような気がして、そのあたりに春樹先生を感じずに済んだのでこの映画はまあまあ面白く感じることができたんだと思います。

◆ヤツメウナギ

おとさんが夜伽のたびに話すストーリーは少し面白かった。
とりとめもなく、奇抜な空想物語(こちらも性的な衝動や湿気が感じられるものなので少し苦手だったけれども)は引き込まれるものがあったし、続きが気になりました。
最後まで語られることなく終わった物語の続きが、岡田将生さん演じる高槻の口から語られる演出やストーリーは、サスペンス作品の様なプロット運びでぞくりとして個人的に好きでした。

◆みさきと家福

なんというか、この二人の湿った恋愛譚にならなくて心底安心しました。
人の死に触れている2人、他人というものに壁を作っている、あるいは自分の膜の中に囚われている、どこか閉じた2人のキャラクタが、ドライブを通して通じ合っていき、お互いの悲しみや過去を受け止め、それぞれ前に進んでいくというヒューマンドラマ。それ自体は、文字起こしするのが野暮なくらいに大変に繊細な脚本に、緻密な表現、演技、それがぴたりとハマり映像として出力されたことに感動を覚えるほどで、素直にいいドラマを見せてもらえた、と感じました。
この映画好きかもしれない!と思ったほどです。
ゆったりと、たっぷりと、贅沢に時間をかけて紡がれる人間譚は、大好きでした。

◆三浦さん、西島さん

2人のキャラクタと、演者の存在そのものが重なり合う様にぴたりとはまっていて、引き込まれるキャスティングでした
西島秀俊さんは普通にファンでもあるので、見ていて素敵だなと思うシーンもありましたが、かなり繊細な役どころをされていたので、正直それどころではなかったのが印象的です

◆岡田将生扮する高槻

暴力性を秘めたキャラクターは、
映画にとって必要不必要、そういった価値観のなにを超越してもとにかく苦手。見ていて不快感があります。生々しい欠落、不安定さ、、、こう言ったキャラクタは、エンタメ作品なら好きになれたのかもしれませんが、この映画の雰囲気と合わさると、個人としてはとても致命的でした。
現実でも地雷なパーソナリティのキャラクタが、リアルに描かれる映画で好きになれるわけがない……

◆長い

現代の娯楽として3時間の映画というのはかなりしんどい。その点でも、やはり、この映画は娯楽としての側面より、見る芸術的な側面が強い作品だと思います。
うたさんが死ぬという事は知っていたのですが、そこに至るまでが長く、いつ物語が本格始動するのか……?と思いました。いわずもがな、そのフェーズ含めて作品として仕上がっているので、長いという見方自体がある種歪んでいるのですが。
完全に個人の好みですが、やはり個人的にはもう少しテンポが良い映画が好きかな


【参考】

https://cinemag-eiga.com/entry/drivemycar/

https://filmaga.filmarks.com/articles/153038/

https://eiga.com/amp/news/20220209/9/

https://ks-novel.com/drive_my_car/-/9269/.html

https://ciatr.jp/topics/320239#index-0

https://note.com/kayu_szk/n/n6cbf2c6ae029

https://cinemarche.net/drama/doraibumaika-hikaku-sigemi/
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