なべ

クラッシュ 4K無修正版のなべのレビュー・感想・評価

クラッシュ 4K無修正版(1996年製作の映画)
4.0
 スキャナーズの昔から、クローネンバーグが大好きだ。無機物と人体の融合、人体の変容や損壊に並々ならぬこだわりを持ち、観客を絶望のどん底に突き落として知らんぷりするあのやり口が堪らなくて、特に前期の作品群は夢中になって観たものだ。
 そんなクローネンバーグのクラッシュが4Kリマスター・無修正でリバイバル上映されるというので観てきた。
 お色直しされた映像は上々で、その進んだテーマ性と相まって、最近の映画と言われても違和感のない極上のクォリティだった。

 久々に会う交通事故友の会の面々も懐かしく、貧富や性別の枠にとらわれないクラッシュマニアたちの飽くなき探究を存分に楽しませてもらった。
 がしかし、記憶の中のクラッシュとだいぶ違ってるんだよなあ。
 てか、あれほどこだわっていたマシンと肉体の融合がないじゃないか! いや、クラッシュマニアたちは事故とエクスタシーの融合を(何ならクラッシュの瞬間にオーガズムに至る因果律を)望んでいるのだが、クルマがそれを拒んでいるというか。「はあ?クルマは人間じゃないんだからそんな求めに応じるわけないでしょ」くらいのドライさなのだ。まじめか。若い頃のクローネンバーグなら絶対セクシャルに融合してたはずだよ。
 ぼくの記憶では、クルマはもっとセクシーに、有機的に撮られていた気がするんだよなあ。クラッシュしたクルマも内臓が飛び出した甲虫のように描かれてたはずなんだけど全然そうじゃなかった。
 記憶の改竄はロザンナ・アークエットとのファックシーンにもあって、ぼくの中では、太ももの傷口を広げてそこにイチモツを挿入することになってる(変態的発言をお詫びします)。せっかくボカシがなくなったのに、ぼくの下半身は最後までピクリとも反応しなかったよ。もっとこうなんというか、常識の向こう側の禁断の性描写に興奮した覚えがあるのだけれど…おかしいな。自分の記憶の方がよっぽど変態じゃん。これはちょっとショックだったw
 他にも事故の衝撃ももっと音と映像の迫力を期待していたのだが、意外とあっさりしていたし。
 もちろん記憶と違うからといって、この独自の世界観が損なわれることはなく、理性や常識の向こう側にあるリアルを描き出す手腕やセンスは、他では決して得られないものだ。むしろぼくの身に起こったように、観終わってから自分の中で記憶をよりアブノーマルに変容させるポテンシャルこそ、クローネンバーグの真骨頂といえる。
 事故や病気など、不慮の出来事で剥き出しの自分を見つけるって経験は、往々にしてあるけど、クローネンバーグの手にかかると、こんなにも妖しく変態な話になるんだな。
 昔は気づいてなかったけど、友の会の皆さんの息づかいの生々しさはかなりエッチだった。
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