かつきよ

マスカレード・ナイトのかつきよのレビュー・感想・評価

マスカレード・ナイト(2021年製作の映画)
3.7
面白かった!!

パワーアップした続編作品というよりも、展開は勿論別物だけれども、前回と似たテイストの作品に仕上がっているので、第二弾という感覚でした。

前作はとっても好きだったので、あれよりも面白いものが出来上がるのだろうか……?と少し心配していましたが(制作期間も刊行後すぐだった気もして、撮影期間も一年にも満たないので)、結果的にはすごく気に入りました。

前と同じ感じじゃんという意見もあり、一部では賛否両論あるようですが……
個人的には、ガラッと展開や方向性やストーリーの組み方を破壊して続編としての博打を打つよりも、前作の雰囲気をそのまま継承して同じ強度の作品としてその後の世界を描いてくれた今作で、むしろ大満足でした。
まさしく前作を見終わった後求めていたものだったし、そもそも「マスカレード・ホテル」はシチュエーションや物語そのものが単発ものならではのバランスで見事に成立していたと感じるので……。みんなが求めていたもの、ただの続きであればなんでもいいわけじゃなくて……やはりホテルマンと刑事、ホテルのサービスと刑事の責任という、相入れない二つの要素の融合ありきで、その続編が見たいなと思ったはず!
その体現であり、核である山岸さんと新田さんのコンビを復活させるためには、またホテルコルテシア東京で事件が起こらないといけないし……そうすると、また潜入捜査をすることになるし……どうしても前作と雰囲気やシチュエーションが似てしまうのはしょうがないですよね。そこを変に改変したり突飛な設定で新鮮さを求めずに、真正面から描いていた今作は堂々としていたし、それにも負けない力強い脚本やストーリーで個人的には満足度がかなり高かったのです!
ホテルマンをやめた山岸さんが違う職業になって事件に関わってもそれはマスカレードホテル最大の面白さであるホテル✖︎刑事が崩壊してしまうし、山岸さんがプライベートで事件に巻き込まれたりしていてもそれは同じですよね
ホテルマンとして、刑事として、それぞれが事件に向き合う今作……
本当に見たいものを描いてくれたな……というのが、まず最初の感想です!!

○事件にウェイトが増えた

前作では、事件の方はわりとざっくりと描写されていて、伏線や道筋はあるものの、動機や犯人像についてはそこそこな描写でのみだった気がします。なので、事件モノの映画にしては少し掘り下げが少ないなと思っていました。あくまでホテルの要素がメインにきていて、比重で言うとホテルストーリー65:35刑事ストーリー的な。メインの事件周りだけ抽出すると、本当に若干だけれど物足りなさがある感じでした。
今回は見事にその比重が逆転していて、ホテルストーリー35:65が刑事ストーリー。事件の規模的なところで言うと前回と差して変わらないのですが、広がりが格段に上がって、犯人とのやりとりも多い。異常性を持った殺人性も強調されていて、色々な謎がラストで明かされていったり、明言はされていないことを考察する余地があったりするので、インパクト+役者で持っていた前作のラスボスとは違って、今回のラスボスは非常にキャラ自体が立っているなと感じました。
それに加えて、役者さんのパワーでさらに魅力がかかっている感じ!

また、単純に事件に直接関わる伏線が多いので、物語中で事件の印象が前回よりもだいぶ強い。
一方で、ホテル要素もちゃんと結構なボリュームで詰め込まれていて、前作とはまた違った悩みや要望を抱えたお客様の対応をしていくパートも健在。

○1日の出来事に

前作は日を跨いで数日間の物語だったけど、今作は大晦日の1日だけのストーリーに……!
前作はだいたい入れ替わりで一組ずつホテルのお客さまにスポットがあたって、順番に進行していたけれど、今作は同時進行で複数の怪しい登場人物を追う流れになったので、少し複雑さが増して、顔と名前を一致させる作業が必要になりました。

○登場人物が多い

↑の影響で、登場人物の多さ自体は前作と変わらないかも知れないけど、同時進行で処理しなければいけない情報が多く、登場人物を追うのが大変に……!
しかし、そこはマスカレードシリーズ。豪華キャストが眩しくて、人物の印象が被ったりすることはないので、誰が誰だっけ?と思うことは結構少なくて、わかりやすかったです。

○総評

求めていた続編を、パキッと映画化してくれた作品。雰囲気良し、キャスト良し、ストーリー良し、ラストシーンも個人的にはグッときました。
2倍面白くなっている!というような劇的な面白さはないし、やはり雰囲気は似ているけど、それを物足りないと感じるか、充分(あるいは期待以上)と感じるかは確かに個人差はあるかも。個人的には期待通りって感じでしょうか
たたま、細かいところの演出が穴だらけで、矛盾とか無駄とか、これ現実だったら絶対にありえないよなという設定や描写が、(フィクションであることは前提としても)前作よりもググッと増えて、緻密さやかちりとハマるような精錬さは目減りしたとは思います。好きであって、受け入れ態勢万全ならもちろん気にはならないと思いますが、気になる人は絶対気になってしまって、ツッコミどころが多すぎてつまらないと感じる人がいるのも理解できます。

【追記】
原作との違いを見ると、映像化失敗と言われてもおかしくないなと思えてきました。
面白かったのは間違いがないけど、映画を見て違和感を感じたことや、深掘りが足りない、説明が足りない、もう少し納得したかった、よく見えてこないな……もやもや、など、小さな違和感を持った要素がほぼ全て原作では説明されていたり、そもそも設定が改変された結果だったり……というのが見えて来ました。
前の映画は結構改変も少ないって聞いてたんだけどなぁ……
続篇早くやってくれたのはもちろん嬉しいけど、もっと丁寧に作って欲しかったな
【終了】

小日向さんは続編やる気満々だし、舞台挨拶に寄稿したコメントを見る限りでは、東野圭吾先生も続編書く気満々だから、続編は期待していいのでしょうかね

以下、ネタバレありでもっと詳細感想

















 

※ネタバレ有り



















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以下ネタバレ有り







○前作との違い
前作は事件とは直接関係ない事件を追っていく中で、メインの時点の真相に近づいていくストーリーだったけど、今作は「あやしい」登場人物は割と全員何らかの形で事件に関与してた
どっちも面白いけど、個人的な好みだと前作みたいな方が好きかも

○冒頭のアルゼンチンタンゴ
○中村アンちゃん

見る映画間違えたかと思った!
中村アンちゃん、このためだけにアルゼンチンタンゴ習ったのか……。
ラストのシーンの伏線になってるとは露知らず。ラスボス、まさかの中村アンちゃん……ってそんな訳はなかった。

山岸さんと言うものがありながら、他の女性といい感じになってる新田さんにちょっともやもや……
あのあと付き合ったり、連絡取りあったりとか、そう言う訳じゃないんだね🤔せっかく二人きりでご飯食べたのに……くぅ

「オヤジに厳しく習った」という事で、アルゼンチンタンゴを厳しく教える親
新田さんはかなり良家の生まれなんだな。
帰国子女って時点で、ある程度の家柄なのかなとは思ったけど、想像以上に雅そう

○田中みな実

前回の濱田岳ポジションでまさかの出演。
濱田岳とは違って、いいがかりではなく本気の(変なこだわりを持つ)クレーマーでしたね。
山岸さんの有能さや機転のきいた対応力を誇示するいい導入だとは思いますが、同じ役割を持っていた濱田岳シーンに比べると、つっこみどころは満載。

まず、田中みな実の、肖像画や人の顔などが見えないような部屋を希望する、という要望が謎。最終的には「人との関わりに疲れちゃったから人の顔を見たくなかった」と言う理由が明かされているけど、フロントやクラークとやりとりをしなければならないホテルに宿泊すること自体が矛盾してるし、明石家さんまのポスターはまだしも、人物の絵画くらいはいいのでは?と思ってしまう。人の顔恐怖症とか患ってるのかな……と言うレベル

対する山岸さんの風船作戦は素晴らしいものだったが、宿泊期間中ずっと風船を固定するか?という問題になるし、強風に煽られたり、事故で割れたり萎んだり浮力が少しでも失われればその向こうには明石家さんまの顔が待ち構えていると思うと、個人的にはそっちの方が怖かったです。いつ気づいたら顔が現れるかわからないんだら……笑
特に風に煽られて風船がずれる可能性は一番可能性が高くてすぐにでもありえますよね

雪に見立てて素敵じゃないですか?ロマンチックに演出する山岸さんはさすがだし、映画的にこれで解決したということなら納得するけど、現実だったらありえないなと思って違和感が拭えない導入でした。

○氏原さん

前作との大きな違いとして、山岸側にライバルが登場したこと!!!!
一年前に他のコルテシアから赴任してきたという氏原さん。印象は悪めで、仕事はできそうだけど、人情味とか愛がなさそうなイカニモなキャラクター。最後は普通にいいやつムーブをかましてきて、山岸さんの事も認めてロサンゼルス行きを快く譲っていたけど……

ただ、このライバル設定を活かしていたかと言われると全然活かせてないと思いました。
だって、結局日下部さんにすごい試されてたのっめ山岸さんのだけだし、少なくとも映画として描写されている限りで氏原さんが日下部様に要望を入れられていたのは見たことがない……!だから、山岸さんと氏原さんの対応の比較とか、二人のサービスの違いとか、氏原さんより山岸さんの方が具体的にこう優れてる、っていう比較できる要素、無いですよね。だから、ただ氏原さんは実力を発揮できる機会に恵まれていなかったように感じてしまうんです。
氏原さんの役どころ、新田さんへの指導という点では山岸さんよりは少し冷たく感じたけど、イコール勤務姿勢につながってるかというとそうでもないと思うし。

だから、このライバル設定とかあってもなくても物語に影響がなかった気がするし、氏原さんがいたからこそのストーリーが薄い気がして……
果たして氏原さんやライバル設定は必要だったのでしょうか……。そもそも氏原さんが活躍するシーンも少ないから
ラストの「実はいいやつだった」ムーブもインパクトに欠けるし。キャラが全然たってないんですよね。ちょっと残念だったかも

○ 曽野昌明

利用履歴を見ていつもありがとうございます、と言ったのを叱られる新田さん
デイユースで決まった曜日の利用……だからいつもは不倫に使ってるんだと判断するのは正直舌を巻いた。こんなことまで考えて対応してくれるホテル本当にあるのかな。むしろホテル界では常識?

望遠カメラを息子のために買っていたというのはいいけど、息子が除き趣味があって、それで死体に気づいたからお母さんに相談したというのも突拍子もなさすぎる。
息子くんの盗撮についての罪はどうなったのかなあなあにされてるなも謎

奥さんも奥さんで、不倫相手にのせられて犯人を脅迫しようと思ったり、その不倫相手が死ねばいいと思って犯人に協力したり、都合が良すぎる
ただ、演技はすごく好きだった

○ 浦辺幹夫(博多華丸)

華丸さんかわいー!!!
ずっと怪しくて、ただ全然事件と関係ないんだろうなーと思ってたら、まさかの二股かけられていた被害者の彼氏で、犯人に脅迫されて怪しい動きをしていただけだったという。
なるほど?とは思ったけど、動きが謎だし……ゴルフバック持ち歩かせてたり、意味深に犯せてた意味がちょっと薄い気が……
ちょっとでも捜査の目を減らしたかったのかな

○仲根緑(麻生久美子)

麻生久美子さんー!!!!!
正直、大好きな女優さんなので、ちょい役かと思いきや大大大抜擢ですごく嬉しかった!!!!!!!!!!!!!!

夫がいないのに夫と二人のケーキや食事を用意させるとか、かなり怪しい動きを見せていたけど……
結局は死んだ夫を断ち切るための最後の宿泊旅行だった……
ちょっと感動してしまったけど、また嘘だったー!!!笑
前作と同じパターンで、特殊な事情のお客さまだと思いきや真犯人だったというオチ。
同じパターンやんけ!というので賛否両論のようですが、個人的には前回と同じパターン「だったのに真犯人だってわからなかった!」ので、唸らされました。まさかの天丼パターン。
初登場からしばらく、新田さんのことことあるごとな気にしているような仕草は、警察だって勘づいて同行を見張ってたって伏線なんですわね。それは面白かった。

ただ、性自認が男っていう要素はもっと伏線張っといてほしかったかも。
もうイメージがあるからかもしれませんが、麻生久美子さんは女性的な演技の方が自然で、後半の男性的な口調や態度の方が演技っぽくて違和感があったし
被害者たちが二股してた設定も謎だし、麻生久美子(男装の令嬢)と付き合ってた人が華丸と付き合うか?という。
ロリータ服や時限式の電気ショックの真意に関しても、そういうものだと言われれば全然納得はできるけど、ちょっと設定としてカチッとはまりきれてないなとも思ってしまいました。

○ 日下部篤哉(沢村一樹)

あからさまに怪しい人物。
山岸さんにばっかり無理難題を押し付けて……氏原さんに無理難題を押し付けてるシーンも入れて欲しかった。
原作では競い合わせる描写はなかったらしいので、山岸さんにだけ興味持ってるっぽいのはそのせいでしょうか。

「無理」なんですか???と強調して、まるで山岸さんの「無理」を引き出そうとしてるのは意図的だったので、何かしらあるんだろうとは思っていたけど、まさかのコルテシア北米支局の長
正直言って、アシスタントを使ってプロポーズ作戦を演じさせるのもやりすぎだと思うけど、もっと対応がみたくなったからと言って「中根緑」さんと懇意になりたい……というのはホテルの責任ある立場の人物としてありえない。全く関係がない(しかも設定上既婚の)お客さまに、少なからず迷惑のかかる可能性が高いのだから、そんなことをしようとする人物に、人を試そうとした腹、ホテルの責任のある立場にいる資格はないのでは?と思ってしまいました
実際山岸さんと日下部さんの立場が逆だったら、山岸さんはそんな試練は出さないと思う

あしながおじさん作戦はユニークではあったけど、知的で計略として優れてると舌を巻くほどではなく、日下部の財力に物を言わせることを許容すれば誰でも思いつきそうな物。
そもそも一般客のわがままをきいて他の一般客(しかも既婚)に嘘を伝えてまで二人の接点を作ろうとするのは、結果が良ければ問題ないがトラブルに発展しかねないし、ホテル側は協力するべきではないんじゃないかな……。
ホテルの提供できるサービスのうちで課題をクリアしていたのならばまだしも、結局日下部様の財力で殴ってるみたいなのもどうかと思うし。

○オチまわり

山岸さんの時計が正しくない物だったっていう伏線は面白かった
ホテルマンの時計が狂ってるなんて、誰も思わないだろうから
でも、タイマーセットする時は普通は自分の携帯とか時計見るよな〜
日下部と絡んだことによって自分の時計とか携帯が使えなかった、とか、山岸の時計で時間を合わせたことに関しての理由づけが欲しかった
結構前から仕込みを入れてて、被害者二人が殺害時刻までに意識を取り戻す可能性はなかったのかな?とかも疑問

山岸さんの命が危ない時に悠長に犯人とアルゼンチンタンゴを踊る新田さん
演出としてはもちろんすごく良かったけど(曲が生オケでかかるのも興奮)
それはそれとしても、いやいやいつまで踊ってんだってみんな思いそうなもの

しかも、犯人を特定できた理由が「その瞳、一度見たら忘れません」っていうのは若干弱い気がする……。

○ラスト

マスカレードの世界にいく?幻想が見えるラストシーン、前作は新田さんだったけど、今作は山岸さんっていう構成は対になっててよかった!!

前作ラストはただ食事しただけで、今作冒頭でも繋がりはなさそうだったけど……
帰国後の食事の予約を入れた……ということは、もう新田さんは山岸さん一筋でLOVEになったってことでいいんだよね!?!?

山岸さんの「無理です」を引き出したのが他でもない新田さんっていう演出にぐぐぐっときました

その瞬間お客様が一斉に立ち上がって捌けていくのとか、不自然なはずなのに演出としてパリッと自然に決まっていて美しい。映像化することによる視覚的な盛り上げが秀逸で、本当に見ていて心地よい映像化だと思いました。

思い返してみると結構ツッコミどころ多いんだなぁ
でも、面白かったのは間違いない!
続編めちゃくちゃ見たいですわ

○その他好きなところ

●前回は新田さん一人がホテルに礼をしていたけど、今回は稲垣(渡部篤郎)含む3人の刑事がホテルに頭を下げていた。そのあとの木の抜けた感じのやりとりも好き

●犯人逮捕に向けて喝を入れる稲垣、
しかしキリッとした表情と真っ直ぐな声で号令をかけた後、最後に表情を崩して「そして、みんなでいい年を迎えよう」っていうシーンが一番好き
渡部篤郎の演技に惚れる。めちゃくちゃ人情を感じるし心に鷲掴まれて、渡部さんに完堕ちですわ

●滅相もございません、とお客さまに伝える新田さん。わたしたちからすると、こんなふうに対応できるだけでとにかく立派だけど、山岸さんがプロフェッショナルとして訂正するのがさすがだなと思って大好き。原作の該当シーンでももっと色々なことを訂正されてて、その記事も見つけたので、参考として一番下に貼っておきます。

【参考】

https://eigahitottobi.com/article/189050/#i-3

→映画版あらすじ、ちょっとものたりない情報量

https://www.toho.co.jp/movie/news/2109/03_masquerade-night_ib.html

→役者登壇の舞台挨拶の書き起こし
原作者東野圭吾さんからのコメントとか、ちょっとした裏話とかも聞けて面白い

https://dorama9.com/masquerade-night-gensaku-netabare/

→原作のあらすじを細かく書いてくれている
映画で違和感を持ったり、意味のないと思ったことは原作ではちゃんと緻密に積み立てられていたことだったんだなと理解できます
映画も面白いと思っていましたが、原作のあらすじを読んだだけでも、映画版がわりと改悪点が多くちょっと残念な出来なことがわかります

https://www.kg-school.net/nihongo-ttc/news/?id=19

→滅相もございません、の誤用シーンの原作切り抜きが載ってる
このシーン好き
かつきよ

かつきよ