磔刑

ライフ・ウィズ・ミュージックの磔刑のレビュー・感想・評価

1.2
オススメ度☆☆
全編彩るsiaの楽曲、独創的なビジュアルは魅力的だ。しかし、それがドラマに何の影響も与えていないので見れば見るほど不毛な時間になる。そういう意味ではミュージカルとして成立してはいない。ドラマとドラマの間にミュージックビデオが挟まっていると解釈して良いだろう。
つまりミュージカルでもなければ、映画として成立しているかも怪しい。
題材の難しさに加えて重いドラマてありながら、そもそも構造的欠陥があるのでどうしようもない。よほどの力量が無ければ無難なドラマで描いて然るべき内容だと痛感させられた。
siaのファンでなければ特別な意味は見出せない作品だ。
<以下ネタバレあり>









脚本の練り込み不足。
まずミュージカルパートが物語に何の貢献も果たして無い。
ビジュアルや楽曲は良いのだが、それが何を伝えたいのかが今ひとつ伝わらない。単純な感情の発露にしては異様だし、コミュニケーションにも思えない。
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のようなキャラクターの特異な視点でもなく、あらゆる人物が共通の奇妙な世界観を共有していること自体が不自然だ。

主人公とミュージックの関係性の変化にも説得力が無い。特別なキッカケ、積み重ねる経験、どちらも乏しく主人公がなぜ最後ミュージックと共同生活に至る決断をしたのかが全くわからなかった。
その関係性の変化にミュージカルパートが役に立って無い時点でミュージカルパートが不必要だ。無駄に飛んだり跳ねたり歌ったりしてる暇があればキャラクター同士のコミュニケーションを堅実なドラマで描くべきだ。

物語の核のはずのミュージックに何の目的も葛藤も成長もないのもどうなんだ?
最初から最後まで物言わぬお荷物のままで、何のために彼女のようなキャラクターにフォーカスを当てたのかが伝わらない。

途中で死ぬデブの役割が全くわからなかった。彼個人のドラマも不鮮明で、物語上の必要性も不明瞭。そんな人物に突然死なれてもどう思えばいいのだ?そもそも命の危機に迫られるような作品でもないのに、二人も死人が出るのが不自然なのだが。

全体的に緊迫感が無いのも集中力の欠如に繋がっている。唯一ドラッグディーラーが緊迫感を生む要素なんだが、借金踏み倒してる相手が大量なブツ紛失してまだ許してる辺りで役割としての説得力が無い。現実の過酷さや社会の厳しさがリアリティの基準になっている作品で、1番冷酷である筈のキャラが1番甘くては作品の現実を保つのは無理があるだろう。

それにカメオ出演しているsiaの陳腐な役割が作品の薄っぺらさを象徴している。
ドラッグディーラーから買ったブツを慈善団体に寄付してるだって???そんな間抜けな偽善聞いたこと無いんだが???
ディーラーも慈善活動を担ってるって、与えた金が反社会的活動の資金源にされてるが?それに自ら社会に貢献している奇特なセレブを演じることが薄寒いとは思わなかったのだろうか?


現地では散々な評価だったらしいが、それは障害者役割を健常者が演じたことが大きな原因らしいが、その論調はどうかと思う。
今まで名優が障害者を演じて名演、名作を生み出したことは幾度とある。
しかしそれは今の社会では容認されないのだろうか?
それなら日本人役割を別の国のアジア人が演じたり、時代錯誤のトンデモ日本描写はどうなんだ?英語圏ではないのに言語が英語だったり、ヨーロッパが舞台なのにアメリカ人が演じたり、北欧神話に黒人が出たりは問題ないのだろうか?
まぁこの問題は所詮セレブが自分たちの地位を確保するためのサンドバッグ役にされたぐらいの意味合いしか無いとは思う。でも純粋な作品の完成度は低いのでその点は擁護できない。

アーティストとしてのsiaは好きなので楽曲は良かったです。
ただ、健常者をキャストしたことについて「依怙贔屓でした」と自己弁護するのは演者に対して失礼じゃないかな?

題材が題材なだけに逆風が吹いた時は強くなるのは容易に想像できるんだから、叩かれた時こそ自分の信念を曲げてはダメだと思う。それこそ類似作品である『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を監督したラース・フォン・トリアーの厚かましさを見習いなさい。あれぐらいの胆力と気骨が無ければ撮ってはならない題材なのよ。
磔刑

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