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SLEEP マックス・リヒターからの招待状のTEPPEIのレビュー・感想・評価

4.8
作曲家・ピアニストのマックス・リヒター。彼と彼の率いるピアニストグループが企画した、「眠り」がテーマのコンサート・SLEEP。8時間以上にもおよぶライブ演奏。観ても聴いても良し、寝てもよし、歩いてもよし。かつてない音楽体験はいかにして生まれたのか、マックス・リヒターの裏の顔も追ったドキュメンタリー作品。

正直生演奏で聴いてこそのSLEEPという目覚めと眠りをテーマにしたコンサートを楽しめるんじゃないかと危惧していたが、映画館でこそ体験できる閉鎖空間でのSLEEP。その演奏にうっとりするだけでなく、演奏を見守る者たちの背景や、マックス・リヒターと彼のパートナーであるユリア・マールの硬く結ばれた愛も見どころのひとつ。
映画音楽も手がけているマックス・リヒターだが、SLEEPのために作曲された音楽群は桁外れに良い。近年では「アド・アストラ」で非常に物静か、時に緊張感がひしひしと伝わってくるスコアを手がけていた。マックス・リヒターのOn the Nature of Daylightでも分かる通り、特徴的で感覚を研ぎ澄ませられるような音楽が印象的である。

全編通して観ても、彼はあくまで作曲家であり、ピアニストであり、家族を持つ人であると痛感できる。映画音楽を手がけているのも、あくまで彼の企画の軍資金のような立ち位置になっているのかもしれない。いずれにしても映画のスコアたちも極めて素晴らしいものが多い。

総評として、「SLEEP マックス・リヒターからの招待状」は興味深いコンセプトのコンサートの裏にある道筋を共に楽しみ、心地よい演奏、ドキュメンタリー作品としての面白さが揃って鑑賞者でさえ、エンディング終了後眠りから覚めたような錯覚に陥る。
気持ちよさそうに寝ている鑑賞者は周りにはいなかったけど、心の中でスヤスヤできるって感じだった。
今年の、劇場鑑賞しないと大後悔する作品のひとつになった。
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