平野レミゼラブル

プリズナーズ・オブ・ゴーストランドの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

1.5
【最初からチャリンコじゃなくて車に乗れやってテンポのENEKUSO映画】
本作、スッゲェーギリギリまで観るかどうか決めかねていた映画でして、と言うのもシンプルに評価がヤバイ程に低い。まあただヤバイ程に低くても、お出しされた作品情報の中には僕の大好物である「トンチキ日本観」と「坂口拓のチャンバラ」があったんで、それらを味合うためなら余裕で特攻かますんですよ。
ただ、監督を務めるのが基本的に「厄い映画」か「超(ウルトラ)厄い映画」のどちらかしか撮らないというシオン・ソノなため滅茶苦茶に二の足を踏んでしまったのです。「厄い映画」なら面白いんですけど「超(ウルトラ)厄い映画」ともなるとね、理解が追い付かないどころか、終始苦虫を嚙み潰したかの如き表情でスクリーンと睨めっこする羽目に陥るからね……リメンバー『リアル鬼ごっこ』。
というワケで、そんなかなりギャンブル性の高い園子温ガチャに挑戦したワケですが、うん。超(ウルトラ)厄い映画の方だったね…………


ジャンルとしては不条理劇というか、それこそ『リアル鬼ごっこ』と同じで話の流れとか設定とかはちゃんとあるんだけど、表現方法がひたすらシュールって感じです。
そのシュール筆頭にあるのが、劇中の舞台となるサムライタウンであり、吉原遊郭をベースに勘違いニッポン描写で彩ったトンチキ日本が展開されているワケで、その造形自体はかなり好み。街を牛耳るガバナーをはじめとした支配者層は西部劇の悪役のようなのに、色街やそこにいる遊女の扮装は江戸時代で、夜になると『ブレードランナー』みたいに猥雑なネオン街となるとかね。
ガバナーの右腕で最強の用心棒に控えるは“サムライ”ヤスジロウで、演じるのが我らがリアル・ニンジャ坂口拓とか、あちこちに見えるヘンテコ日本語看板も含めて期待感を煽ってくれます。

ただ、肝心の物語がビックリするほど遅々として進まないので早々にダレます。話の筋自体は「銀行強盗の罪で服役していたニコラス・ケイジが、サムライタウンを抜け出して危険なならず者の街・ゴーストランド方面へと逃げたガバナーの女・バーニスを連れ戻す代わりに自由を得る司法取引をして旅に出る」という「行って、戻る。」だけの単純さなのに、そもそもの最初の街を出るまでで凄まじい時間がかかっている。
まあ、その時間を使って「サムライタウンがどのような街なのか」「ニコラス・ケイジが凄腕のアウトローらしいこと」「逃亡やバーニスへ危害を及ぼすことを防ぐためにニコラス・ケイジに着せた時限爆弾スーツ」等の説明をしている為、必要な時間っちゃ時間なんですが、全てガバナーが台詞で長々と説明するので画面から読み取る面白みってのは皆無です。
台詞回しにしても表現を変えてるだけで全く同じことを繰り返してるだけだったり、いちいちサムライタウンの面々が「大きな古時計」を歌い出す等のシュール演出を挟むので余計に話が進まないことにイライラさせられる。最初の内は「もっと面白いところを見せてくれ!!」って感じに前のめりな姿勢で楽しんでいたサムライタウンの美術も、この長々とした説明の間に見慣れすぎて飽きてしまうのも相当な問題。

本作「時間」をテーマにしており、それは制限時間までにバーニスを連れ戻さないと爆死するスーツの存在だったり、惨劇の時間からずっと時計を止め続けているゴーストランドの存在だったり、時間の支配者と呼ばれるガバナーだったりから窺えるのですが、本編は時間を物凄く無駄にしまくった展開をこの後も続けまくります。
冒頭で見せられたニコラス・ケイジのトラウマとなっているらしい銀行強盗シーンは、中盤に冒頭で見せた分も含めてまた見せつけられますし、雰囲気作りというより尺稼ぎとしか思えないシュールな演出も頻発される。
そのため、本来なら制限時間付きでハラハラさせられる筈のニコラス・ケイジのミッションが、遅延しまくる物語運びのせいで全く緊迫感がありません。
しかも困ったことにこのダラダラした展開、製作側が意図的にやっている感じなんですよね。なんせ、ニコラス・ケイジがサムライタウンから出る時に用意された車を無視してわざわざチャリンコに乗って出発しますから。「時間制限があるのに急がないなんてクールだぜ!」って表現っぽいですが、ただでさえ冒頭から全く進まない展開にイライラしている身としては余計にイラッとしてしまう。結局、その「武士は食わねど高楊枝」(?)な精神を察したヤスジロウが車で追いかけてくれてそれに乗り換えるので、その表現の全ても無駄になるし。

そもそも、本当に作中で出てくるサムライタウンやゴーストランドのトンチキ世界観が面白いか?って改めて考えてみるとそこも微妙なんですよね……何故かというと全ての美術の造形や演出に既視感があって廉価版に見えるから。
サムライタウンの猥雑な色街は『ブレードランナー』、サムライが跋扈するトンチキ日本の雰囲気は『キル・ビル』、ゴーストランドの街並や住民の造形はまんま『マッドマックス』シリーズで見たことがあるので真新しさが全くないです。そこを独自の面白さでカバー出来ていれば良いんですが、そこで展開される原爆や核被害へのメタファーも含んだシュール・チープ・オーバーの三拍子揃った演劇調の演出にしても大林宣彦作品の大幅な劣化なので面白くも何ともない。
原爆ドームのような廃墟の時計を再度爆発させないように広島原爆投下の1分前で固定させ続けているゴーストランドなど、個々としては光りそうな設定もあるのですが、全体の出来の悪さやオリジナリティのなさの前では鈍く光るのみです。

サムライタウンの親玉であり全ての元凶であるガバナーにしても、シュール演出に甘えて何がどう脅威なのかちっともわからないので戻ってきての死闘にしても盛り上がらない。
確かに女の敵ではあるし、色んなゲス行為をしまくってはいましたが、時間の支配者と呼ばれる理由は最後の最後まで全くわからない。『リアル鬼ごっこ』の斎藤工とか、アレでいて滅茶苦茶わかりやすい元凶表現だったんですね。こっちはお手上げです。

となると、最後に望みを託すのはニコラス・ケイジvs坂口拓のドリームマッチしかない。
そちらに関しては流石に拓さんの見事な剣捌きもあり、見応えのあるチャンバラになっていたので素直に良かったです。ただ、最後の最後に余計な茶々を入れるような演出が入り一気に興醒めに。
そんなこんなで頼みの綱だった殺陣も、拓さんが77分ワンシーンワンカットの殺陣を行った『狂武蔵』を延々と流していた方がよっぽど面白いという結論に至ってしまいました。そういや、あの作品も元々は園子温監督の企画段階でポシャった作品のうち、10分くらいの長回しをやるところを増量して完成させた映画だったな。結果的に園子温監督の作品内で披露せず、単独作品としてお出ししたの正解だったかもしれん……

まあそんな感じに、巷のヤバイ評価も納得のヤバイくらいに「超(ウルトラ)厄い映画」で心底ガッカリした作品ではありました。一応「超(ウルトラ)厄い映画」を観たというトロフィーは獲得できたので「時間を完全に無駄にした」とまでは言いませんが、他人の時間を犠牲にする責任までは取れないのでオススメは本当に出来ない。
あとこれは偏見なんですが、園子温監督の「超(ウルトラ)厄い映画」って「クソ映画!!」とかこき下ろすと「ふーん、まあ君はこの“領域”には至れなかったか…」ってしたり顔でニヤニヤされそうな雰囲気にあるのが滅茶苦茶イヤですね……なので、僕は本作を軽率にクソ映画とは呼びませんよ。じゃあなんて呼ぼうかなって考えたら、映画の最後の方に看板に書かれていた謎の単語「ENEKUSO」が脳に焼きついたので、それに因んで「ENEKUSO映画」と呼ぶことにします。本当なんかもう、ENEKUSO映画だな!!!