平野レミゼラブル

マイ・ダディの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

マイ・ダディ(2021年製作の映画)
3.3
【性と罪と向き合う家族愛。ムロツヨシ、渾身の父親演技。】
竹中直人、滝藤賢一、佐藤二朗、そしてムロツヨシ。
僕が「素の演技力は高いのに自由に演じさせたら鬱陶しいことこの上ない」と内心感じている日本の俳優であり、本当マジで手綱はちゃんとつけてくれ…と監督ないし製作陣に訴えていきたい方々です。みんな普通に演じている分には好きなんだけどね…アドリブ込みのテンション高めで来られるとゲンナリするというか……特に某F監督と後者2人が絡んだ時のアレは半ば諦めている。
まあその四天王の一人であるムロツヨシ初の主演作品なんですが、オフザケ抜きの役者ムロツヨシだったので、その点は物凄い安心感でした。ムロが演じるのは男手ひとつで娘を育ててきた牧師・御堂一男で、時に剽軽ながらも基本的に真面目で優しい父親を真摯に演じており、中学生で白血病となってしまった娘ひかりの為に泥臭く奔走する姿が印象的。

本作は『TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM 2016』というコンペで準グランプリを勝ち取った作品ということでして、要は叩き上げの実力派映画。しかしこのコンペ名、どっかで聞いたことあるな……って思ったら、個人的今年のベスト10有力候補である『哀愁しんでれら』の出身地でした。しかも『マイ・ダディ』と同年のグランプリです。
あの地獄の家族映画と、この真っ当に感動できる家族映画を同時に評価したとか、審査員の情緒どうなってんだ?????


とは言え本作、徹頭徹尾真っ当に感動の親子愛!って話かというとそうでもなく、割とクセの強い部分も目立ちます。
まず、娘が白血病という死の病に侵されているためか、その対となる生の象徴としてセックスの要素を割と入れてきている。冒頭の時点で聖夜ならぬ性夜なギシギシアンアンが描かれますし、ひかりも生きている証が欲しいとばかりに同級生の男の子を誘います。別に直接的に描きはしないものの、この辺りは結構生々しい部分がありますね。
そもそも、ひかりの治療のために骨髄移植の適合者を探した時に「実はひかりは実の子供じゃなかった」という衝撃の事実が明らかになるのが本作の骨子であり、8年前に他界した愛妻が実は不貞を働いていた?という部分が一番生々しいですね……愛する娘の苦境でいっぱいいっぱいだった一男の心に、妻の裏切りという黒い疑念がよぎり、心優しい彼の怒りが抑えきれなくなるサマが辛い。その上で自分が抱えたその邪心に耐えられなくなって崩れ落ちてしまうのも痛々しいです。
この“性”というトガった要素を押し出してくる辺りは、流石にあのアクが強すぎる家族映画『哀愁しんでれら』と同じコンペで競い合っただけはあるなって感じですね。

あともう一つクセの強い部分があるんですが、こちらは伏せておきます。
いや、今回試写会前にムロちゃんから、探偵役の小栗旬のキャストに関してはネタバレしないでねって注意を受けたんですが、むしろそれ以外のところにネタバレ厳禁で観たかったな…っていうキャストがおりまして、事前に人物相関を見ていた僕としてはそちらの方が気にかかってしまったり。
いや冒頭から違和感というか、これはどういう意味なんだろうって感じてはいましたが、キャスト思い返して狙いに勘付いちゃったからね……ここら辺、新鮮な思いで観たいのであれば、ムロちゃんが父親くらいの雑な認識で観に行った方がいいですね。そこまで大局に関わることではないんだけど、より観た時の楽しみは増すと思うので。
あと、上映日までの秘密だよって感じに言っていたのに、普通に上映日前に小栗旬のことを公式で明かしているのも同じくらい気にかかってしまったり……というか、そもそも小栗旬よりあの人の方をシークレットキャストにした方が良かった気がするんだよなァ……

上記のクセの強い部分を除けば、内容自体は割とベタというか、特筆して真新しいとか面白いって部分はそこまでないです。それでも善良に歩んできた一男が、今まで触れることもなかった闇の部分に踏み込んでいった結果の異物感とか、事の真相が両面から見れば明らかなんだけれど、登場人物は一面しか見れないから気付けないもどかしさがままならず、物語上の試練と克服は巧い具合に成り立っています。
一男が亡き妻への愛を見失った分、今まで以上に遺された娘への愛を注ぎだすけれど、家族としての愛の源流はどこにあるのか…といった部分を、彼と娘が直面した試練を乗り越えた上でおのずと見つけていく過程は綺麗です。

キャストとしてはおふざけ無しで優しい父親を演じきったムロツヨシがやはり良い。
ムロちゃんのお喋りで滑稽な部分は、全て皆から自然と慕われるお人好しで話好きな牧師さんという部分に活かされており、嫌みなく良い人を演じ切る動力になっています。最初の方こそ牧師服に着られている…というか、勇者ヨシヒコ的なコスプレ感がありましたが、終始しっかりとした演技なのですぐに馴染みます。

娘役の中田乃愛ちゃんは映画出演2作目というほぼ新人からの大抜擢で、流石に表情の演技などにまだムラが感じられるものの、思春期特有の不安定さも滲む演技がフレッシュで良い!
白血病役ということで、実際に頭を剃って演じた体当たりっぷりからしてお見事で、これからの活躍も注目できる女優さんだと思いましたヨ。

ガソリンスタンドの同僚や、知り合いのホームレスのおっちゃん達などは、本筋に関わるかと思ったら全くいなくても良い人物なのは結構拍子抜けだし、彼らの存在含めて一部ちょっと都合がいいなって展開はあるっちゃあるんですが、それでも真っ当に良い作品ではあります。
少なくともムロツヨシという俳優の真っ当に良い部分はふんだんに出ているので、ムロちゃんの奮闘ぶりを観たい人は要チェックです。