Dick

デカローグ デジタル・リマスター版のDickのレビュー・感想・評価

4.5
●作品概要(出典:公式サイト)
★過去名古屋で公開された史上最長(587分:9時間47分)の映画。
★大長編でも、今月公開された『ハイゼ家 百年(Doc)』(218分)のように、関係のない風景映像を延々と挿入した水増しがなく、密度の高いドラマに仕上がっている点が傑作といわれる所以である。
★長編ランキングは下記2.マイレビュー❼トリビア:「名古屋で公開された大長編映画トップ10」を参照。
①ポーランドの名匠クシシュトフ・キェシロフスキ監督が1988年に発表した全10篇の連作集。もともとはテレビシリーズとして製作されたが、その質の高さが評判を呼び1989年ヴェネチア国際映画祭で上映。その後、世界中で公開され高い評価を受けた。日本では1996年に劇場で初公開され、当時最新作だった「トリコロール三部作」の人気と相まって圧倒的な支持を得た。映画監督のスタンリー・キューブリックが「重要な作品」と絶賛したほか、エドワード・ヤン、侯孝賢など数多くの映画作家たちがキェシロフスキの才能を羨望し賞賛した。クシシュトフ・キェシロフスキ生誕80年/没25年の記念イヤーに、最新レストレーションにより一層美しさと輝きが増したデジタル・リマスター版が公開される。
②第5話と第6話はそれぞれ劇場用長編映画に再編集され、『殺人に関する短いフィルム(1987)』、『愛に関する短いフィルム(1988)』として公開された。
③題名の「デカ」は数字の“十”、「ローグ」は“言葉”を意味し、旧約聖書の「十戒」を意味する。この「十戒の映画化」は1984年のキェシロフスキ監督作品『終わりなし』から共同で脚本を執筆しているクシシュトフ・ピェシェヴィッチの「誰か“十戒”を映画にしてくれないかな?」という何気ない一言に端を発している。「十戒」を映画化するにあたって、キェシロフスキは巨大団地に住む様々な人々を各エピソードに分けて描くオムニバス形式を採用した。また、政治的なもの、当時の社会主義体制下のポーランドの現実の生活を想起させるものは映画からは一切排除し、人々の表側で起こっていることではなく「人々の内側で起こること」を描くことを重視したと語っている。そうして、まるで人の心を顕微鏡で覗き込んだかのような、いまを生きる人々の孤独と愛の苦悩を、驚くほど細やかに鮮やかに描き出した珠玉の10篇が完成した。生きていればきっと誰もが直面してしまう《人生のさまざま》。それでも、誰かに抱きしめられたときの体の温もり、やさしく声をかけられたときの心の高ぶり、キェシロフスキの向ける眼差しは鋭く厳しくもやさしい。<誰の人生でも探求する価値があり、秘密と夢があると私は信じているんだ。>クシシュトフ・キェシロフスキ。

1.はじめに:『デカローグ』と私

❶日本初公開
①本作が日本で初公開されたのは1996年1月20日、東京。
②名古屋の初公開は1996年7月13日(土)。名駅から徒歩10分の今は無き「シルバー劇場」で、リアルタイムで観ている。
ⓐ途中休憩を挟んで、朝10:50から夜22:00まで通し上映。
ⓑ料金は、通しの前売りが¥6,000、当日が¥1,000/1話。

❷初回のリバイバルは2005年5月。5枚組DVDボックスが発売された機会に、小規模で公開されたもので、名古屋では未公開に終わった。

❸そして、今回が2回目のリバイバル。クシシュトフ・キェシロフスキ生誕80年/没25年の記念年に、4Kレストレーション(2015)により蘇った鮮明な映像が、北海道から沖縄までの全国9劇場で公開されている。
①今回の料金は、通しの前売りが¥7,000、当日が¥1,000/1話。
★料金が25年前と殆ど変わっていないのに驚き。
★今回は、1日4話を基本として、何週間も繰り返し上映されることで、仕事を持つ観客が見やすいよう配慮されている。

❹映画は草の根親善大使
①本作を観てから3か月後の1996年10月、スウェーデンで行われた或る国際会議に出席した。
②そこで出会ったポーランド代表の女性委員と、本作『デカローグ』のことを話題にしたが、たちまち打ち解けて、10年来の知己のような親しみを感じた。
③世界各国から100名前後の人が参加する夜のレセプション・パーティでは、初対面の相手でも、映画の話題を持ち出すと話が弾むことを体験した。
④アジアや欧米の人たちは、よく映画を観ている。どの国でもハリウッドの人気作品は知られていて話題には事欠かない。更には相手国の映画を持ち出せば、初対面の人でも昔馴染みのような親しみを感じるのだ。スポーツ・音楽・文学・絵画等もあるが共通性で映画に勝るものはないと思う。
⑤その後も仕事やプライベートで外国人と会う際にはよくこの手を使ったが、極めて順調だった。映画は「草の根親善大使」なのだ。
★これは対外国人の話で、日本のビジネスマンは最近の映画を殆ど観ておらず、映画の話が役に立ったことは極めて稀だった。サンプル数が少ないが、ビジネスウーマンは映画好きの人もいて有用なケースがあった。

2.マイレビュー◆◆◆ネタバレ注意

❶相性:上。

➋まとめ
①25年ぶりに再会した本作からは教えられることが数多くあった。多分、初回観た時には気づかない点もあったと思う。
②9時間47分の映像から得られたことを、数千語の文章に纏めることは不可能なので、思い浮かんだことのみ記載しておく。
③基本として、本作には「正解」なるものが何処にも示されていない。判断に迷った時には、ロジックに矛盾がない範囲で、観客が自由に解釈すれば、それが答えになる。
④人の一生を通じて遭遇する出来事は、生死に関わる重大なことから、他者にとっては取るに足らない些細なことまで、千差万別である。100人集まれば100通りの人生があるのだ。
⑤本作でも、色んな人の人生の局面が描かれる。共感出来るもの、同情出来るもの、見習いたいもの、否定したいもの等々、様々である。
⑥そして、共通していることは、それ等の殆どが、当事者が望んだものではなかったということだ。思い通りにいかないのが世の中なのだ。「Dreams come true」ではなく、「Iimpossible dream」で終わるのが大部分なのだ。
⑦それが分かっていても人は努力する。勇気を振り絞ってチャレンジする。
⑧ビジネスの世界では、成果を伴わない努力は価値がないとされるが、個人の人生の場での努力は、どんな結果であれ価値があると思う。
⑨その人が、臨終に際し、精一杯努力したかどうかを問われた時、「イエス」と答えられれば、その人の人生に悔いはなかったのだ。
⑩本作を通じて、このことを確信した。
⑪10話のマイ・ベストテン順位:
8話-10話-1話-6話-4話-2話-9話-7話-5話-3話。

❸10話の中で、一番印象深かったシーン:
①感動した印象的なシーンが数多くあった。
②その中のトップが「第1話」。大学教授の息子の少年がスケートをしていた池の氷が割れて、水中に没する事故が起きる。心配して集まった団地の住人たちが捜索を見守っている。少年は遺体となって引き上げられる。その時、住人たちは、一斉に跪いて少年に黙祷を捧げるのである。
③ポーランド人は敬虔なクリスチャンが多いと聞いていたが、それを目の当たりにして感動した。

❹キェシロフスキの仕掛け1:観ていて気付いたこと
①「第8話」の主人公であるゾフィアの大学の講義の中で、女性徒が質問する。引き合いに出したエピソードが、「第2話」に登場した、老医師と、妊娠中の女性と、重病で入院中の夫の3人のエピソードと全く同一だった。
②「第8話」のゾフィアの友人の切手コレクターが入手した貴重なコレクションが、「第10話」に登場した切手と同じものだった。
③「第10話」の主人公の一人、イェジが郵便局で最新の記念切手セットを購入するが、その窓口担当が、「第6話」のトメク青年。
④「第5話」で殺されるタクシー運転手が、乗車拒否したカップルが、「第2話」の夫婦のドロタとアンドレ。

❺キェシロフスキの仕掛け2:事後情報で知ったこと(出典:Wikipedia)
①「第7話」と「第10話」を除く全ての回で、名前のない役を演じたアルテュル・バルシス(アルトゥル・バルチシ/Artur Barcis)が、超自然的な存在として描かれている。
★でも、この意味は理解出来ない(笑)。上記❷③に記した様に、「正解」は何処にも示されていないので、「理解不能」も正解の一つである。
第1話:湖のそばで焚き木にあたっているホームレス
第2話:病院の用務員
第3話:車掌
第4話:ボートをこぐ男
第5話:ハシゴを担ぐ工事作業員
第6話:食品袋を持つ男
第8話:大学の学生
第9話:自転車を漕ぐ男
②瓶入り牛乳が多くの話に登場する。
★でも、この意味は理解出来ない(笑)。
第1話:牛乳が酸っぱい
第2話:医者が常に牛乳を持ち歩く
第4話:ミカルは最後に牛乳を買いに行く
第6話:トメクが牛乳を運び、マグダがそれをひっくりかえす
第7話:エヴァはアニアを母乳で育てようとし、ヴォジェクはマイカに「アニアには牛乳が必要だ」と説く
第9話:子供らが遊ぶのを見ながらロマンは牛乳を注ぐ

❻外部評価
①Rotten Tomatoes:該当なし。
②IMDb:22,800件のレビューで加重平均値は9.0/10。
③KINENOTE:285人の加重平均値84点/100点
④Filmarks:386人の加重平均値4.4/5.0

❼トリビア:名古屋で公開された大長編映画トップ10:
①『デカローグ(1988ポーランド・西独)』 587分。本作。
②『SHOAH ショア(1985仏) (Doc)』 570分。1997.07日本公開。未鑑賞。
③『鉄西区(2003中国)(Doc)』 545分。2004.04公開。2020.12.30アンコール公開。アンコール鑑賞。\3,600
④『死霊魂(2018仏・瑞西)(Doc)/』 506分。2020.08日本公開。リアルタイム鑑賞。\3,900
⑤『サタンタンゴ(1994ハンガリー・独・瑞西)』 438分。2019.09日本初公開。リアルタイム鑑賞。\3,600
⑥『ジョルダーニ家の人々(2010伊・仏)』 399分。2012.07日本公開。リアルタイム鑑賞。 \2,000
⑦『輝ける青春(2003伊)』 366分。2005.07日本公開。リアルタイム鑑賞。当日\3,500前売\2,800
⑧『1900年(1976伊・仏・西独)』 316分。1982.10日本公開。リアルタイム鑑賞。
⑨『ファニーとアレクサンデル(1982瑞典・仏・西独)』 311分。1985.07日本公開。リアルタイム鑑賞。
⑩『ヘヴンズストーリー(2010日)』 278分。2010.10日本公開。リアルタイム鑑賞。\2,500。
⑪次点:『東京裁判(1983日)』 277分。1983.06初公開。リアルタイム鑑賞。
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