カツマ

エル プラネタのカツマのレビュー・感想・評価

エル プラネタ(2021年製作の映画)
3.9
炸裂するアートの連打。それは淡々と日々を描き、モノクロの絵に色彩のような色を塗る。歩くだけで絵になるけれど、その背景には物言わぬメッセージが見え隠れするかのよう。画面は分割されて戻ってきては、また新しい日常を刻むばかり。少しの変化すらも愛おしい。そう、これはちょっとくらいの贅沢話。何も起こらないように見える道端のドラマであった。

今作はミレニアル世代のアーティストとしてカリスマ的な知名度を誇るアマリア・ウルマンによる初の長編映画である。元々、現代的なテクノロジーをアートに転化した立役者だけに、映像化した作品もやはりアート臭の強いものへと仕上がった。監督、脚本、主演を全てアマリア自身が務めており、母親役にはアマリアの実の母、アレ・ウルマンがキャスティングされている。そこに描かれたのはモノクロで描かれる母と子の日常。金欠で希望があるわけではないけれど、決して悲観的ではない。そんな日々がオフビートなテイストで淡々と刻まれていた。

〜あらすじ〜

スペインの海辺の町ヒホンに住んでいるレオは、母との二人暮らし。レオは元々、ロンドンの学校に通っていたが、卒業して、母の元へと帰ってきていた。が、母は仕事もせず、家賃も払わずで、その日暮らしの生活をしており、アパートの立ち退きを迫られているような状態。レオはデザイナーとしての大きな仕事を獲得するも、それ以上に逼迫しているのは日々の食料の調達だった。そこでレオは家財を売るなどして何とか小金を得ては、生活を切り盛りしようとしていた。
そんな折、レオはとあるお店のカウンターで働いているロンドンから来たという男性に声をかけられる。実はレオが引きつけている間に母親が万引きする、というコンビプレイだったのだが、ナンパされたレオは満更ではない様子で・・。

〜見どころと感想〜

センスで突破するにしてはあまりにも出来のいい映画デビュー作である。タイトルバックやエンドロールの安っぽさが不思議と気にならない作りは面白いし、全てをアートとして仕上げてしまうことで画の強さを強調することに成功している。またのんびりとしたサウンドトラックや、淡白だけど愛らしい人間模様など、初期のジム・ジャームッシュだったり、最近ではグレタ・ガーウィグあたりとの類似性も窺える。

主演のアマリア・ウルマンはそのルックスが完璧にモノクロの中で映えわたっており、映画映えは抜群。普通に俳優かと思うレベルである。そして、母親のアレ・ウルマンがまたいい味を出しており、とんでもなくいい加減で、マイペースな雰囲気を上手く醸し出している。そこにあるのは本物の親子の間にある空気感。グダグダなのにきっと悪いことは起こらなそう。そんなある種の無敵感が渦巻いている作品である。

そんな母子の日常の合間に差し込まれる年配者たちの行進が何とも示唆的で暗示的。メッセージは読み手に読み解かせるもの、というアートの本質が守られており、それはアーティストとしてのアマリアの性質なのかもしれない。とはいえ、アートに寄りすぎず、映画としても面白く作られており、特にラストの展開は最高。脚本家としての才能まで感じさせる作りで、彼女には、まだまだ今後、映画製作を続けてほしいと思わせるに足る一本でした。

〜あとがき〜

なかなか変な映画ですが、ジム・ジャームッシュとか好きな人にはハマると思います。とてもオフビートで緩やかで楽観的だけどやっぱり大変。何も起こっていないようで何かが起きている。アート映画ですが退屈ではない点も好印象でしたね。

そして、構図を作るのが上手い人はモノクロが合いますね。まるで写真作品を観ているようで楽しいんです。活動は多岐にわたるようなので次作はどうかな?かなり待たされそうかな?と思いますが、あるならば次もきっと観賞しているでしょう。何とも愛らしいデビュー作でした。
カツマ

カツマ