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アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイドのSPNminacoのレビュー・感想・評価

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アンドロイドが理想の伴侶になり得るか。ポップなSFコメディやスリラーにもなりそうだけど、地に足着いた真面目な作りである。
序盤はAIロボットのトムが(当然)人間離れしたイイ男すぎて滑稽といえば滑稽なのだが、どんどん哲学的、本質的にヒューマニティを獲得していく。そして相手の好みとか要望を学習したトムによって、彼を拒む学者アルマが逆に愛や優しさを学んでいく。でもそれは、相手が自分自身を映す鏡みたいなものだからで、他者視点を通じて自分の見方を持つから。最初からトムは「トム」でなければならず、人間以上に人間、理想的な人間関係を体現しているのだった。
基本は定番ロマコメ映画に沿って展開してる。相性の良くない出会いから、疑念や苛立ち衝突、実験の経過をカウンセリングする場面はそのままカップルセラピー。やがてトムに隠れて煙草を吸ってたアルマは、人に一番隠していたものを彼に見せるようになる。おかげで、ロボットでも愛があれば別にいいんじゃないの?人じゃないものを愛する人はいるし…ってまんまと思えてくる。
但し、映画はアンドロイドにはない出産や老いも同時に提示。結局、アルマは不完全で愚かで矛盾した人間=自分を見捨てず愛するようになるといえる。それも幸福なのだと。元夫に優しげに微笑みかけるアルマ。
ベランダで蟻を見下ろすカットと、同じベランダから道路で絵を運ぶトムと元夫、歩き去っていくトムを見下ろしたカットの相似。また、森で鹿に囲まれ木と一体化したトムの遠景ショットが印象的。研究者としての視点か、長い歴史や俯瞰では人間もちっぽけな暗示なのだろうか。ラストも暗示的だが、アルマの実験と研究は一つの答えを得たのだから幸せな終わり方だ。科学や人文学、哲学も広義で人を知り、「世界をよくする」ためにあるのかもしれない。
とにかくアンドロイド演じたダン・スティーヴンスが絶妙のはまり役というか、巧かった。如何にも無味無臭な美男、敢えての英国人設定(ドイツ語は本人?吹き替え?)、邪魔にならないエレガントさ。アンドロイドとの内省的「対話」が面白い。
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