牛猫

白い牛のバラッドの牛猫のレビュー・感想・評価

白い牛のバラッド(2020年製作の映画)
3.7
夫を冤罪で失った妻と幼い娘の前に、夫の友人を名乗る男が現れたことで状況が一変する話。

予告編の引きが絶妙で気になっていた作品。男の正体とか事件の真相とかが焦点になるのかと思いきや、そのあたりは途中にサラッと明かされてしまう。しかし拍子抜けするということはなく、どのように決着をつけるのか。先が気になって画面から目が離せなくなっていった。登場人物も少なく、派手な演出や音楽があるわけでもないのに、カメラの構図とか撮り方が上手くて、何気ないワンシーンにも緊迫感が漂う。
親権裁判の帰りの道中、水を買うために立ち寄った売店でのカメラのパーンにはゾクゾクした。

テーマは償いと赦し。中国に次いで死刑執行数世界2位のイランだからこそ描けるテーマだと思うけど、抽象的で宗教的な表現も多くて、イスラムの文化やイランの情勢を知らないと理解するのは難しいのかも。死刑執行が多いということは、中にはこの映画のように冤罪によるものが含まれることもあるわけで。自白を重視した前時代的な裁判で死刑のような重大な判決が神の名の下に簡単に下されてしまうのが恐ろしい。
多様性や自由を尊重する現代において、当たり前のように男尊女卑が罷り通っていたり、シングルマザーや未亡人への風当たりが強かったり、神の解釈が都合良すぎだったり、観ているだけで息が詰まりそうで不快だった。こんな赤裸々に国の恥ずべき部分を曝け出して描いていいのかと心配になったけど、どうやら本国では上映禁止にされてしまったそうで、そういう作品が世界で多くの人の目に触れて評価されるというのが一種のカタルシスにもなっている。解釈が分かれそうなラストも絶妙で唸らされる。

それにしても主演のマリヤムモガッダムさん。演技の巧さもさることながら、監督と脚本も務めていたとは恐れ入った。
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