ちこちゃん

白い牛のバラッドのちこちゃんのレビュー・感想・評価

白い牛のバラッド(2020年製作の映画)
4.1
「神のによる裁き」
「神の御加護を」 

イランでは、コーランが法律です。だから、離婚の民法も、殺人の刑事法も全てコーランをもとに作られています。

この映画の主題である冤罪も、イランでは冤罪が起こってしまうことそのものを「そのように神が定めた」ということになるので、冤罪は起こっているにもかかわらず、それさえも肯定されてしまうのです。
その矛盾をこの映画は鋭く突いています。その理由により、イランでは2回だけ上映されて、その後上映禁止になっているそうです。

イランでは、基本的に女性は夫もしくは未婚のうちは父親か兄弟としか外出してはいけない決まりになっています。このようなコーランに従ったルールをもとに、イランの方々は生活しています。

昔、随分前にイランに行った時に、イランに着陸した途端、頭に必ずスカーフをするように指示されました。
女性の髪は男性を誘惑するので、慎ましくあるために、スカーフで覆うのだそうです。
スカーフをとるのは、家の中の家族の前でしか許されず、ネックレス買おうと店でスカーフを外そうとしたら、ガイドの形から、保安部の役人が来てしまうので、やめてくれと言われたことを思い出し、今も変わっていないことに驚きました。

映画のシーンでも、未亡人となったミナが、口紅をつけ、スカーフを外し、男の部屋に入っていくシーンがあります。それが、意味することはイランの人には明白だと思います。

イラン流サスペンスとしても、良く出来ている映画だと思います。
それと同時に、抑圧されている女性、特にシングルマザーは、イランでは生きていくことすら大変であることがわかります。
そして、神の下、神に代わって事の善悪を人間が判断することによる過ち、それによる良心の呵責と心の葛藤は、人間であれば避けられないものです。しかし、神が決定しているのだから、間違いがない、という矛盾を無きものとする宗教政治を行うイランの矛盾をくっきりと描き出している挑戦的な映画と言えるでしょう。

あまりにも欧米の価値観に染まってしまった世界の多くの国の一つである日本に住む私は、自分の国の価値観だけが全てではなく、良いか悪いかは別として、違う価値観とベクトルで生きている人々が世界にはいることを、改めて感じた映画でした。

心が重くなるけれど、とても良い映画でした。
ちこちゃん

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