うみぼうず

白い牛のバラッドのうみぼうずのレビュー・感想・評価

白い牛のバラッド(2020年製作の映画)
4.0
ここ最近イラン映画を観ているけど、本作も丁寧な画面構成、最小限ながら伝わるセリフと表情、そして暗喩的な表現の数々で、とても満足できる作品でした。

報復が法的に認められていることもあり世界第2位の死刑執行数とのこと、しかし怖いのは「神のご意志」という免罪符ではないか。ある種の責任転嫁とも言え、自身の判断や行動の理由を神に棚上げすることは容易。

最近のTVドラマ『VIVANT』の主演 堺雅人さんへのインタビューで、今まで1度も葛藤したことがないという話をしていた。その時インタビュアーは、「堺さんは自分の中での芯がしっかりあるから葛藤しないのでは」と言っていて、この映画における判事や法曹関係者は信じる神という軸があるんだろう。

それを是としない判事の行動も理解できる。心からの葛藤であって、自分だったらどうだろうと考える。究極の覆水盆に返らずではあるけども、残された人間にできる事は赦し赦されることだけというイラン社会は歪だとも思う。
被害者の妻が来てもドアを開けてもらえずドア越しに赦しを請うシーンも印象深い。自分は赦さず、だが赦しを得に来る危うさ。

ラストの展開も衝撃的ではあるが、ミナの行動はよく理解できる。そして牛乳。タイトルの白・牛を思わせながら、ミナの働く牛乳工場の無機質さ(決められた法のルールを進むのみ)などを感じさせる。塀の中の牛はこの先どこに向かうのだろうか。
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