マヒロ

ボーはおそれているのマヒロのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
3.0
(2024.25)[5]
地獄のように治安の悪い街で怯えて暮らす中年男性のボー(ホアキン・フェニックス)は、大企業の社長である母の暮らす実家に帰ることになるが、道中様々なトラブルに見舞われてまともに帰路に着くことが出来ず困り果てる……というお話。

家族間の不和がろくでもないことを引き起こす話ばかり撮っているアリ・アスター監督だが、今作でもやはり支配的な母親と抑圧される息子という題材を取り扱っていて、おまけに大胆にも3時間という大長編でお届けしてくれた。
『ミッドサマー』の直後に今作の撮影の話が出ていて、その時は「次はコメディになる」とか言っているのを見かけて、んなわけあるかいと思っていたんだけど、意外にもその言葉の通り明らかに不条理コメディとして撮られている。特に序盤、冗談みたいに荒れた街で翻弄されるボーを捉えたパートに関してはかなり楽しくて、やりすぎなくらいめちゃくちゃなハプニングばかり起こるので常に楽しかった。
ただ、正直そこがピークであるとも言えて、後は右肩下がりな感じ。特に森の中の劇団に拾われるパートはかなり冗長で退屈なところが多かった。ここで『オオカミの家』のレオン&コシーニャを起用した場面があるんだけど、あの毒気はどこ行ったと言いたくなるような無難なアニメーションになっていてそこも物足りず。流石に『オオカミの家』レベルのクオリティは期待していなかったが、もっとアリ・アスターとの個性のぶつかり合いみたいな強烈なものを見てみたかったかなぁ。

色々と影響を公言しているみたいだが、個人的に思い出したのはスコセッシの『アフター・アワーズ』。ただ家に帰るだけなのに変な人間が次から次へと現れて邪魔されるという理不尽なコメディで、大枠はかなり似ていると思う。どうやら今作はユダヤ教にまつわる文化が大きく反映されているようで、スコセッシもユダヤ系だし何か根底には同じものがあるのかも。

長編3作目にして最も監督の我が出ていて、最初がセラピーの場面になっているが、今作自体が監督のセラピーみたいな形になっているように思える。自分の辛い気持ちを吐き出しつつ、それに観客を巻き込んで共感を得ようとしている感じ。3時間もあるのも、必要な長さというよりは出来るだけ長く観客を映画の世界に引き留めようとして故意に伸ばしているんじゃないかという気すらしてくる。製作者のパーソナルな部分が色濃く出るのは悪いことではないと思うが、それとエンタメとしての面白さのバランスが一番良かったのは『ヘレディタリー』だったと思っていて、段々そこら辺の均衡が取れなくなってきているような。パンフレットによると次は西部劇をやろうとしているらしいが、果たしてどんなものが出来上がるのかなんだかんだで楽しみではある。もうちょっと短くはしてほしいが。
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