とりん

アミューズメント・パークのとりんのレビュー・感想・評価

アミューズメント・パーク(1973年製作の映画)
3.1
2021年92本目(映画館32本目)

「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」や「ゾンビ」を手掛け、ゾンビ映画を世に広めたとされるジョージ・A・ロメロ監督の1973年に製作され、長い間未発表だった作品。

本作は簡潔にいうとアミューズメントパーク(遊園地)を舞台として老人がひどい扱いを受けるといった映画内容だ。
ロメロ監督らしい社会風刺、皮肉たっぷりの内容だった。いやもはや直接的な表現も多く、見ていて居た堪れない気持ちになってばかりだった。
冒頭の入りとして主演であるリンカン・マーゼル本人の語りから始まる。そこでも語られるが実際誰にでも老いは訪れるもので、それによって自分もいつかこういう扱いを受けるかもしれないという気持ちを持ち、そうならないように影響力のある若手が動かなくてはいけないというメッセージが込められている。言葉で示しているように本作ではダイレクトにそれが伝えられている。

元々本作自体が年齢差別や高齢者虐待について世間認識を高めるために、教会がロメロ監督に依頼したというのが製作の始まりらしいが、あまりにも直接的に容赦なく描かれており、その強烈さに未発表のままとなっていたようだ。

この手の作品は構成やカット割や表現なども含めロメロ監督の得意とするところだろう。恥ずかしい話、彼の作品はゾンビ系のものしか観てはいないけど(クレイジーズはリメイクのみ)、特に代表作となる「ゾンビ」なんかはそれが象徴的だった。本編は白い部屋から始まり白い部屋で終わる、希望と絶望に満ちたそれぞれの老人が居合わせることにより、ループとして描かれているのだけど、それがまた上手いなと。
高齢者に対する差別だけでなく、黒人差別的なところもハッキリ映し出してたし、さすがのダイレクトすぎるメッセージ性の濃さだなと。

不快感を与えるというのはもちろんこの作品のポイントでもあるが、ただその気持ちになったというだけで留まることはないだろう。ここまで直接的な内容でそんな人いるならロメロ監督作品は正直観ない方がいい。

さすがに1973年の映画でずっと眠ってた作品だし、大衆向けに作られた作品でもないのでフィルムの状態は良いにしても、音声とかはイマイチなところはあった。でも彼らしい奇抜でカオスなサウンドはこの作品をしっかり助長していたし、より不快感は増していた。
当時の社会問題に切り掛かった作品ではあるけど、今の時代にも通ずることはあるし、医療の発展で平均寿命も延び、高齢社会となった今だからこそ伝わってくるところも多い。何よりやはり自分たちも必ずその老いを迎えるのであり、身近にもご年配の方は多数いるわけであり、明日は我が身のようにしっかり向き合っていかなければならない問題であると改めて気付かされた。

4年前に惜しくも亡くなり、彼の新しい作品を観ることはもうできないけれど、こうして発掘された作品で新しくお目にかかれるのはファンとしは非常に嬉しいものだ。
とりん

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