平野レミゼラブル

JOINTの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

JOINT(2020年製作の映画)
3.5
【表と裏を繋げる骨太のドキュメント・ノワール】
個人情報を抜き取り裏社会へと流す“名簿”ビジネス。横流しされる顧客情報、飛ばし携帯、Wi-Fiルーターetc…情報社会と化した現代ではあらゆる手段やブツによって個人の情報は抜き取られ、特殊詐欺などに回されていく。本作は名簿ビジネスで成り上がったムショ上がりの男・石神を主人公として、名簿から波及する様々な裏社会のビジネスや繋がりを描いたインディーズノワールとなっています。
インディーズとは言え、相当綿密に取材を重ねた上で描かれるザラザラとした裏社会のリアリティが魅力的。その取材姿勢とアウトローへのシニカルな目線はどことなく『闇金ウシジマくん』をも彷彿とさせるものがあります。

また、主演の山本一賢氏はそもそもお芝居自体これが初めてというように、演者の4割が演技素人ということに驚かされます。監督曰く「演技経験」よりも「個性」や「ルック」を重視したとのことで、実際芝居自体はそこまで巧くなくても全身から漂わせるオーラがヤーさんやヤカラのそれっぽくて見事にカバー出来ていました。
上映後の挨拶にぬっと現れた山本一賢さんとか、なんか「ガチモンが来ちゃったな……」って感じの圧がモノスゴかったからね…(ド失礼)長身でトークショー中も全く姿勢を崩さないから迫力ありすぎるんですよ!!
主要メンバーだけでなく、役としては端役の歌舞伎町でキャッチしている人とかも本当にいるわー!って質感だったからね。まあ本当にキャッチの仕事してる人を連れてきたらしいので本当にいたんですけど。

この裏社会に本当にいそうって質感が一番大事な作風ではありまして、こういう裏社会のアウトローは実は表社会に根差して堂々活動している実感を湧かせる効果を生んでいるんですよ。僕はヤクザ映画、それも実録系のものを好んでいますが、それでも映画の中のそれはどこか現実離れしていて、自分とは全く関わりのないファンタジーのようなモノだと感じている節がありました。
しかし、実際にはそうではない。表と裏の実態は隣り合わせで、『JOINT』のタイトル通りに簡単に繋がり、相互の動きによって社会全体が回っている事実が、物語が進むにつれて明かされていく衝撃が次々と襲いかかってきます。
例えば、そこら辺にある韓国人の経営している焼き肉屋が裏メニューとして飛ばし携帯を扱っていて閉店後は不法入国者たちを集めて裏のお仕事をしていたりとか、都心を走る車の中では電波探知による居場所割れを防ぐためにヤーさん達がオレオレ詐欺を行っているとか、綿密な取材をもとにした最新の犯罪事情が明らかにされていきます。
中盤に石神がカタギに戻るために始めるのはベンチャー企業への投資でして、その時に裏稼業で手に入れた“名簿”を企業が開発したアプリへビッグデータとして活用するサマなんかは、表と裏が見事に繋がってしまった瞬間。世界は実は裏から動かされているようなもので、縁遠い世界だが決して他人事ではないことにゾクゾクしてしまいます。

裏社会を覗いているかのようなリアリティは絶えず溢れていて、安っぽさや作り物っぽさがなかったのは白眉と言っていいでしょう。入れ墨彫るところとか演者の方がガチで新しく彫ろうとしていたからってことで、ガチで彫るところを撮影していたとかちょっと凄いよね。因みにそのガチで紋々彫っていた樋口想現さんも本業は役者じゃなく、バスケット選手だとか。真実(マジ)ィ!?いや、だって本業にしか見え…なんでもないです。
ヤクザ上層部に関しては、ちょっとチンピラレベルに吠えているのが気にかかりましたが、まあチンピラとヤクザの違いとかそれこそ映画の中でしか見てないからリアルかどうかなんて僕だってわかんないな(笑)

どことなく犯罪の裏側を追ったドキュメンタリーチックな部分もありますが、物語自体はしっかりと起承転結が定まっていて、石神という男が表と裏の中間で藻掻きながらも、結局裏の人間としてしか生きられない悲哀がよく描かれています。
友人の勧めでベンチャー企業への投資をして「これで俺もカタギだ!」って信じ込んでいるサマが凄く愚かで哀れなんですよ。いや、投資金は名簿横流しで得た真っ黒な金だし、何なら現在進行形で名簿渡すとかアウトなことしてんじゃん!ってことでして。

それに、裏稼業から簡単に足を洗うなんてことも出来なくて、石神が撤退してしまうと名簿入手で世話になっていた焼き肉屋の方が上客を失って飯の食い下げになってしまうんですよね。すると、それで生活をしていた不法入国者が行き場を失ってしまって次の揉め事に繋がってしまう…という具合に裏のパワーバランスが複雑だってのも察せられます。
この焼き肉屋の構造が特に興味深く、ただ単に違法ビジネスを摘発するだけでは解決しない。もっと根本の外国人労働者の賃金問題とか、不法就労の方にメスを入れていかなくちゃ駄目だって社会批判にもなっているんですね。
『ヤクザと家族』でも「ヤクザの締め付けを厳しくしても、似たようなことを半グレが始めるから無意味」ということは示されていましたが、本作はそこにより具体的な例を挙げて踏み込んで描くところが素晴らしい。綿密な取材を施しただけあって、かなり骨のある内容になっています。

監督によると本作には脚本というものがほぼなく、その場その場のアドリブで場面を繋ぎつつ「石神だったらどのように動くか?」を突き詰めて物語を展開させていたとのこと。そのため終盤の展開もほぼライブ感らしいですが、ちゃんと作中の石神の心理や行動原理を理解し切っているため、しっかり一本の物語としてまとまっている安心感よ。
インディーズながら撮影と編集も凝っていて、オレオレ詐欺をしているシーンを小刻みなカットにして音楽をブチ鳴らすMADみたいな演出が滅茶苦茶格好良い。暴力描写も最高で口にマイクを突っ込んで、杭のように拳で押し込み「グワーン…グワーン…」と雑音を反響させながらブチ殺すとかキレまくっています。

ただ、本作の抱える難点もインディーズ特有のものでして音質がひたすら悪い。
山本氏をはじめとする演技素人の方々の芝居の拙さ自体は全身から漲らせたオーラで消し去ってはいたんですが、くぐもる台詞はいかんともし難く聞き取りづらい。それもナレーションで特殊詐欺の説明する箇所とかごにょごにょした説明と、やたらデカいBGMの相乗効果で全く聞き取れなかった。
裏社会ドキュメンタリー作品の側面もある本作としては、この問題は致命的。観客の抱く「詳しく知りたい!!」って欲求が、単純な演技と音響のせいで損なわれているため何とも勿体ないです。この辺はプロのナレーターを雇うなり、BGMを控えるなりの対応をして、聞き取りやすさを優先して欲しかったところです。
裏社会の仕組みと物語が密接にリンクする作りなだけにね、ここら辺が「聞き取れなかったから、何となくで理解しとこう」だと面白さが半減しちゃうんだよね……

そんな感じで物語の製作には粗があるものの、ドキュメンタリーチックなノワールとしては唯一無二の存在感を示していて非常に見応えのある怪作となっています。
これだけ裏社会のことを取材して精通している人ともなると、ほぼ裏の人間に近しいヤバイヤツなんだろうなァというこちらの予想に反して、小島央大監督は若くヒョロッとした好青年って感じだったので、これからも問題なく期待できるでしょう(笑)
マジでこの路線はそのままに製作体制を洗練させていけば、物凄い骨太のノワールを創っていける予感しかないんで応援していきたいところです。