もものけ

テーラー 人生の仕立て屋のもものけのネタバレレビュー・内容・結末

テーラー 人生の仕立て屋(2020年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

アテネで高級スーツの仕立て屋営むニコスは寡黙な男。
父親が経営する仕立て屋は、時代に取り残されて経営は火の車。
ある日、父親が倒れてしまい一人になったニコスは、廃材を集めて移動式荷車を作り、客を求めて街へ出かけるのだが…。







感想。
ギリシャの経済状況を背景に、機械化量産文化になる衣装に取り残されてしまったスーツの仕立て屋を通して、人生への挑戦を描いたのんびりなサクセス・ストーリー。

寡黙なニコスが主人公であるため、とてもセリフが少ないのですが、サイレントムービーに音楽を取り込んだような面白い演出で、歌わないミュージカルに仕立てあげた不思議な魅力があります。
Mr.ビーンのような顔芸が特徴的な俳優ディミトリ・イメロスが、表情と仕草だけで演じており、ギリシャ映画をあまり鑑賞していない私には新鮮なイメージです。
ここにコミカルな楽器による演奏をバックに、次々と変わるショットなどで表現しています。

観光に特化した為に、世界情勢が変わると人が来なくて行政破綻してしまうギリシャを、ニコスが売り歩く屋台と共に映し出しておりますが、ゴミが散乱して落書きにまみれ、生活が苦しそうな庶民と、外国人観光客の身なりの温度差が対比構図としていて、そんなギリシャに住むロシア人一家との交流なども盛り込んで、ドラマ性を持たせております。

ビシッと決めた高級感あるスーツ姿で、SUZUKIのGSX400に跨がり屋台を引く姿が美しいギリシャの景色に溶け込んで様になるのが可笑しいです。
ドン底の男の話なのに、何故か勇気が湧いてくる素敵なコメディです。

頑なに伝統を守ろうとする父親に対して、ニコスはバカとあしらわれていても新しい物へ挑戦する性格で、男性スーツしか扱ったことがないのに請け負った仕事がウェディングドレスというのにワクワクさせてくれます。
デザインに興味のある隣人のロシア人妻と共同で切り盛りするロマンスもあり、ただのコメディではない手法が良いです。

しかしニコスは男性であり寡黙な男なので、世界一の主張をしてウットリさせるほどのドレスを着飾って、世界に唯一人の美しい花嫁としての舞台に立ちたい女性の気持ちは分かりません。
機能性を追求したニコスのデザインと、大きければ大きいほど良いと考えるスカートの幅へのギャップが笑わせてくれます(笑)
テーブルクロスを合わせてアクセントにしたシーンなどは、その出来栄えにこちらも満足してしまうほど夢のあるシーンでした。

隣人の娘ヴィクトリアとの交流もハートフルで楽しく、互いが無いものを協力し合う形で、多民族との協調性として描いている点もなかなか。
ヴィクトリアの元気で愛くるしい演技が素朴で癒やされますね。

照明効果と鮮やかな色彩の映像美が芸術的で良く、フレーミングの中で踊るように動く被写体と光の反射を前に持ってきたりと、幻想的でもある撮影方法がコメディでありながら、しっとりとした大人のラブロマンスとしても演出しております。
他文化の特徴的な結婚式で踊る二人の距離感がなんともいえません。

生活感漂う街角で露天商としてウェディングドレスを仕立てるシーンは、女性の感じ方は分かりませんが個人的には素敵でウットリさせられる笑顔の女性達を見ていると、魔法使いの行商人が幸せを運んでいるかのようでした。
演じている女性達がモデルのように美しいエキストラばかりだからかもしれませんが、それもまた演出の一つでもあります。

店は差し押さえられますが、父親へのコンプレックスから解放され、シトロエンのバンに乗り換えたニコスは、どこか満足げな笑顔で各地を旅してゆきます。
そこには、店の看板にやっと自分の名前が描かれたニコスが選んだ、新しい人生が待っているのかもしれませんね。
これが邦題サブタイトルである"人生の仕立て屋"というのがニクい。

寡黙な男の物語なので、隣人の家族生活を壊してしまうような不倫ネタは、正直いらなかったように感じましたギリシャのコミカルなサクセス・ドラマに、4点を付けさせていただきました!
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