わじ

コーダ あいのうたのわじのネタバレレビュー・内容・結末

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

自分の「やりたいこと」と「求められる役割」の中で葛藤する10代少女の等身大の姿が描かれている家族愛に溢れた作品。

◯感想
前評判を聞きすぎたせいか、それとも私が末っ子長男として甘やかされながら育てられたせいか(笑)、皆さんが言うような号泣作品!!とはならず、100%感情移入できなかったというのが本音です。とはいえ、ルビーの葛藤や家族の本音、彼女の感情の揺れ動きがとても丁寧に描かれていて、共感できるハッピーエンドな作品でした。

爆音で迎えにくるシーンや、夜ご飯の支度をしている周囲でお皿をガチャガチャさせたり、「音楽は家族が楽しめないもの」といったシーンなど、私のように不自由のない人間からしたら見落としていまいそうな日常のシーンを丁寧に切り取っているのは、本当に素敵でした。アメリカ映画っぽくないなって思って調べたら、フランス作品『エール!』のリメイクで、作品全体を通した雰囲気もGAGAっぽくて心地よかったです。

◯作品の山場を聞かせずに「見せる」演出が最高
ルビーとマイルズのデュエットシーンを父親の「気付き」に使う演出が本当に素晴らしかったです。
2人が本作を通して一番練習してきた曲を無音で表現し、それを聞いている周囲の観客のリアクション(父の視線)にフォーカスを当てることで、今まで「聞いたことがなかった」娘の歌声の力強さ、魅力、可能性に気付かされるシーンは感動的でした。
この瞬間を感じるためだけに(といったら語弊ありますが)こそ、映画館で見て欲しい作品です。あの息を飲む一体感、没入感こそ映画館で映画を見る醍醐味だと思います。
今まで無音で表現する作品はたくさんありましたが(例えばライアン・ゴズリング主演『ファースト・マン』とか)、ここまで長尺で効果的に演者の心情を表現している演出はなかったのでは?と感じました。

その後の、ベースの重低音が好きな父が、喉の振動でルビーの歌声を感じ取ろうとしているシーンも、心から娘のこと理解しようとしている父の親心が感じられてとてもよかったです。

場面場面で多用されている音楽(BGM含む)も素晴らしく、『青春の光と影』などルビーの心情をよく表してたように思います。


両親、兄、娘、それぞれがそれぞれを思い合って、支え合っている日常の中での変化と成長がとても丁寧に描かれています。
ラストシーンの手話「愛している」は思わず日常でも使いたくなるような温かい気持ちになれる作品でした。
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