せーじ

そして、バトンは渡されたのせーじのレビュー・感想・評価

そして、バトンは渡された(2021年製作の映画)
3.0
301本目。
ここのところ、重苦しいレビューを書き続けてしまっていたので、さらっと感想が書けるものがあるといいなと思い、この作品を選んでみました。
泣けるということで話題だった本作。とてもハートフルなジャケットデザインにも惹かれてレンタル、そして感想。




…はい、残念ながら1ミリも泣けませんでした(真顔)
ただ、普段の自分だったらクドクドと細かな不満点をあげつらって叩いていたのかもしれないですけど、そういう気持ちにはなれなかったのですよね。その辺り、どうしてそういう気持ちになれなかったのか。そして、どうして泣けなかったのかを今回のレビューでは形にしてみたいと思います。
(※とはいえ、この作品がお好きな方にとっては、不快になる表現が多々出てくるかもしれませんので、ご注意ください)

■三人のヒロインによる圧倒的な「女優力」
まず思うのがこの作品、強烈に「女優力」が働いていたのではないだろうか、ということでした。石原さとみさん演じる"梨花さん"は、捉え方によっては単に自分勝手な毒婦のような女性にも見える人なのですけど、物語上嫌悪感と不自然さを抱かずに観れてしまった最大の要因は「演じていたのが石原さとみさんだったから」だと思うのですよね。彼女由来のピュアネスとポジティブさが、演じられている石原さとみさんから全開で放たれていて、自分自身がそれに絆されてしまったからだと思うのです。同時にそれを受けとめる稲垣来泉さん演じる"みいたん"の存在もすさまじく、ただただ泣く姿が可愛いだけではない、観る人の心をとらえて離さない魅力が炸裂しているように感じました。そしてもちろん、永野芽郁さん演じる"優子さん"が醸し出す魅力もスパークしていました。永野さんは序盤こそ展開の都合上控えめな立場に留まっていましたが、徐々に存在感が増していく中盤以降の彼女はとても魅力的でしたね。
つまり自分はこの作品を観て「いいじゃない、たとえ映画としての完成度が高くなくとも、こんなにヒロインたちの魅力がたっぷりと詰まっているんだから」と思ってしまったということなのだと思います。演じている女優たちの魅力が、観ている映画そのものの良し悪しの判断と評価を鈍らせるなんて、正直恐ろしいなぁと思いますが、そういうミラクルが働くこともあるのが、映画の面白いところなのかもしれないですよね。

■泣けなかった理由
とはいえ、それならダラダラボロボロ号泣してしまっても良いものなのに、なぜ自分はこの作品で泣けなかったのかというと、観ていて「これって、イイ話なのかな?」と思ってしまったからでした。
優子さん(みいたん)って、実は作品全体を通すと、完全に初対面の人と自分の意志でゼロから関係性を作ることをほとんどさせてもらっていないのですよね。お父さんたちは全員梨花さんに"チェック"されてから彼女に紹介されていますし、学校での出会いもその時その時の「家族関係」によって、提供されたものだと言えるのだと思います(つまり梨花さんが森宮と出会わなかったら、優子さんは早瀬と出会わなかったかもしれない、ということですね)。そして、優子さんが自分の意志で選んだように見える早瀬のことも、実は昔から憧れていた存在だったということがのちのち明らかにされますよね。
つまり優子さんは、まるで決められたレールを走らされているかのように、梨花さんをはじめとした大人たちによって用意された、安全で安定した人間関係の中でしか生きてこなかったかのように自分には見えてしまったのです。そう考えると自分はこの物語がイイ話に思えなかったですし、なんだか優子さんのその後がとても心配になってしまいました。だってあの子は、学校でも「事情を知ってもらうまで」は仲がいい友達も居なかったようですし、仕事だって新しい環境に馴染めずに「見知ったお店」で働くようになっちゃってましたよね。あの物語の結末の仕方だと、仮にもしもそこから先の人生で、出産と育児と言う形で自分の子供と「ゼロからマンツーマンで関係性を作らないといけなくなってしまった」としたら、一体彼女はどうなってしまうのだろう、大丈夫なのかなそれって…?と思ってしまったのです。

■「バトン」であるべきなのか
この作品が描いている様に、そもそも子供をはじめとした「庇護されるべき存在」というものは、「バトン」のように、責任を持つ者同士で受け継がれていく存在であるべきだということなのでしょうか?
…自分はこの作品を観て、そこが最も引っかかってしまいました。
言わんとしていることはわかるのです。様々な大人たちの努力と関わりによって優子さんは美しい立派な大人の女性に成長したのだと言えますからね。
でもそれって…、優子さん自身の人間性と意志を否定していることに繋がりかねないのではないかな、と自分は思ってしまいました。「安定した人間関係を子供に用意するのが保護者となる大人の責任である」と描いていることに異論は無いですが、それは「不安定な人間関係はどんなものであれ排除しなければならない」「家族のことについて、たとえとても大きな変化であったとしても、子供にとって良きことであるならば、子供の意見は聴かなくてもいい」という考え方にもすり替わりかねない、ちょっと危険な考え方なのではないのではないのかなと思うのです。まぁそりゃ、周囲の大人たちがいたいけな女の子を地獄に叩き落すようなことをするのはどう考えても駄目なことですけど、「信頼できる見知った人間たちだけで子供を育てる」って、なんだかどこかでそこに内向きで排他的な匂いを自分はかぎ取ってしまうのです。そしてその「安定」「信頼」を担保するために必要だと描かれているのが、やっぱりどうしても「お金」なのですよね。それもわかりますが、優子さんや梨花さんとみいたんの前に立ちはだかる経済的な要素が絡む問題を解決をさせていくプロセスが色々と大雑把で、自分は鼻白んでしまったのです。そういう考えで最終的にバトンを受け継いだ者が「嫁に行くまで責任をもつ」ということにこだわるのって、今の時代そろそろ…と思ってしまいます。まるで優子さん自身が「失敗」や「挫折」によって成長する機会を、周りの大人たちによって根本のところから取り上げられてしまっているようにも見えてしまったのですよね。

※※

といったところで、さらっと観てさらっとレビューを書くつもりでしたが、思ったよりも文章のボリュームが増えてしまいました。役者陣、特に女優陣の演技は吸引力がすごく、彼女たちの姿を見て泣けてしまうというのも理解できる作品だったとは思います。色々と書いていますが、色々と考えたくなるような作品だったということでしょう。
しいてまとめるならば、この作品の「リアルではない部分」よりも、ここまで書いてきた「奥底に潜んでいる考え方」に、自分はノれなかったのだと思います。
興味のある方はぜひ。