朝ドラ「エール」での好演に熱狂した福島県人として、ぬかりなくチェックしていた窪田正孝主演映画。それも政治を題材としたコメディだなんて、意欲作の匂いしかしないじゃないですか。ましてやタッグを組むのが宮沢りえ、とくればいやがおうにも期待が高まるというものです。幸運にも、Filmarksオンライン試写会にてひと足お先に鑑賞できました。ありがたや。
衆院選前、ある地方都市のベテラン議員が病に倒れ担ぎ出された2世候補を秘書の視点から描くお話なんですけど、出るネタ出るネタ「あーこれ知ってる、どっかで見たやつ」とすんなり腑に落ちてしまう目配りの細かさがまずは凄いです。これまでの人生、投票はすれど選挙戦になぞビタいち関わったことなんてないのに、あれもこれもどれもそれもなんか知らんが既視感がある。いっそ清々しいほど自信たっぷりの読み間違いも、結論を敢えて出さないポエム発言も、各方面との持ちつ持たれつな癒着ぶりも、粛々と進められるスキャンダルの揉み消し工作も、これまで何度も何度も何度も何度も繰り返し見聞きしてきたことばかりです。
これが実際に起きたことなら「またか」と怒る、というよりもはや呆れるといった気持ちのほうがずっと大きいんですけど、フィクションの枠組みで政治家本人に最も近しい裏方目線から描かれるだけでこれほどガラリと印象が変わるんですね。主役に肩入れするあまり「頼むから上手いことやってくれ」と祈るような気持ちにさせられる、ということは「もしも自分がそっち側なら、いともたやすく長いものに巻かれるんじゃね?」と痛いところをピンポイントに突いてくるよね、ひねりが効いてるよね、って話です。
国政選挙とか世襲だとか、そんなでっかい話じゃなくても大なり小なり身に覚えがある。日々の職場で、地域で、あるいは家の中で、ありとあらゆる組織の中で「これはこういうものだから」と見て見ぬふりでやり過ごしてること、臭いものに蓋をしたまま知らんぷりを決め込んでること、ひとつやふたつ絶対あるでしょ?そんな自分を棚に上げてよくもまあ偉そうに無責任に怒れるもんだな、と鋭い刃を持つブーメランが自分めがけて一直線に飛んでくるのを感じました。こういう些細な積み重ねこそが、政治への無関心ってやつに繋がってるんですかね。これ、コメディの皮を被って相当際どいとこ攻めてるぞ、全方位に皮肉が効いてるぞ、と震え上がった次第であります。宮沢りえが終始どストレートしか投げてこない演技なのがまたいいですよね。作風はまるで違う筈なのに、何となく「メリーに首ったけ」を思い出しました。
欲を言えば、政治家と秘書それぞれの父娘関係をもうちょっと掘り下げて描いてもらいたかったです。そしたらきっと、覚醒に至る心情変化のリアリティが増したと思うし、終盤にかけての奮闘と空回りがより際立ったんじゃないかと。あのラストなら続編だって作れそうだし、そしたら今度はそこんところを深掘りしつつ、より若い層が劇場に走らざるを得ないほどえげつないコラボ(アニメとかアイドルとか)なんかを期待したいです。待ってる!