噛む力がまるでない

ひまわりの噛む力がまるでないのネタバレレビュー・内容・結末

ひまわり(1970年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

 1970年に製作され、日本でも根強い人気を誇る恋愛映画である。

 第二次世界大戦を背景に戦争で引き裂かれた男女の悲喜こもごもを描いており、とても切ない結末を迎えるが、ただ悲しいだけはない戦争の名残りを感じさせるロマンスになっている。
 ウクライナで撮影された有名なひまわり畑のシーンなど印象的なシーンが多く、終盤、ミラノに戻ってきたアントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)がジョバンナ(ソフィア・ローレン)の家で再会するシーンもよくできている。すれ違う感情は停電中に、別れがたい気持ちはろうそくをつけてから、そして電気が復旧すると現実が……といったように、照明の変化が2人の心理的な距離を表していて、とても考え抜かれたシーンだと思った。

 わたしはテレビ大阪の特番で見たのだが、特筆すべきは吹き替えが新録であるという点だ。アントニオは1976年の吹き替え版と同じく羽佐間道夫があてており、ジョバンナは新しく勝生真沙子が担当している。1976年版と聞き比べてはないが、とにかく今回の吹き替え版での2人の芝居は素晴らしい。若いころのかけ合いはちょっとどうかと思うくらい陽気で(勝生の演技が実にキュート)、生き別れて以降は徐々にシリアスなトーンを帯びて、再会したときにはアントニオとジョバンナがまるで別人のように変化している。それぐらい大変な時代と人生を積み重ねてきたということがしみじみとわかる吹き替えで、とても楽しめた。
 在阪の放送局がどうしてこんなプロダクションを組めたかは不明だが、素敵な吹き替えがローカル放送なのはもったいない。おそらく50周年HDレストア版のソフトに収録されるのではないかと予想しているが、とりあえずは放送を録画した人には保存をオススメする。