ほんとうはこの世界とどこかとを隔てるものなどないのだろう。だから、怪我を気にせずに裸足で駆けまわることも、うるさいくらい幽霊たちの動く音を聴くことも、なんにもおかしいことじゃない。ある日いきなり投げ出されたこの世界は、不思議であふれかえっているのに、それらをすべて見つめて触れようとしないなんてもったいないもの。そこにあるのにないことにされているさまざまな存在を思うことも、気のせいなんて言葉にしなくてもおそろしくないくらい自然なことだった。わたしたちは恐がりだから、わかるように線を引いてしまったことにして安心しようとしただけ。自由で濁りのないまなざしと引き換えに、歳を重ねるうちにこわがらないことを選んだのだった。わたしが幼かった頃大きかった感覚は、現在もここに在るのにちいさくなりすぎてしまった。あみ子がまっすぐこちらを見つめながらどうして？と語りかける時、わたしは自由さと真実をうまく編んだような答えをちゃんと答えられるだろうか。あの頃を思う懐かしいという気持ちじゃなくて、わたしは同じように世界を見られないかもしれないけれど、わたしとあなたは同じ世界に居るよという気持ちで。そのままでいてね、なんて無責任なことは言えない。伝えたいのはいつもこう。できるかぎり生きたいように生きて、そのうちにいつしか変わってしまっても、あなたはあなたでしかないよ。
