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ナイブズ・アウト:グラス・オニオンのymdのレビュー・感想・評価

3.7
2023年最初の鑑賞は話題のミステリー映画から。本年も宜しくお願いします。

上質なミステリー映画だった『ナイブズ・アウト』の続編。主人公の探偵ブノワ・ブランをダニエル・クレイグが続投し、ニヒルでどこか抜けたキュートな演技を今回もたっぷり見せてくれている。

前作と直接的なストーリーの繋がりはないので今作から初めて本シリーズに入るのも全く問題ないけれど、ライアン・ジョンソンが引き続きメガホンを取っていることもありシリーズとして一貫したトーンが組み敷かれているので前作ファンも存分に楽しめる作りになっている。間口の開き方が実にポップである。

前作は豪邸の中での殺人事件を舞台にしていたけれど、今回は大富豪が私有する孤島の中で起きた惨劇がテーマになっている。
どちらもクローズドサークルというミステリーのクラシカルな装丁なのが心憎い。愚直にも王道の設計で勝負をかける姿勢が素敵である。

とはいえ全体的に埃っぽい舞台装置が印象的だった前作と比べると今回の舞台には最先端のテクノロジーが搭載されており、伴って謎解きについても近未来的なフィクション要素が導入されているのが特徴。

そのシフトチェンジを否とするかどうかは人それぞれだろうけど、あくまでもミステリー展開自体はシンプルで複雑化し過ぎていないから良しとする向きが大半なのではないだろうか。

ハッキリ言うと肝要のトリックの精度は前作に劣るとは思う。アッと驚かされる捲り芸は健在だけど全体的にスマートさに欠けるというか、ブランという探偵の良さでもある謎解きスタイルにおけるストロングスタイル(粗雑さ)が裏目に出たように感じてしまう。

決して納得できないものではないけれど、前作のような思わず膝を打つような感嘆には至らずどこかもどかしいのも事実である。

ジェームズ・ボンドを降ろしたことでどこか肩の力の抜けたようなダニエル・クレイグは今作でもブノワ・ブランを嬉々として演じている。

今作は彼を取り巻くキャストも非常にリッチだ。
キーパーソンとなる億万長者マイルズを演じるのは怪優エドワード・ノートン。なんだかずいぶん久しぶりに姿を見た気がするけど、相変わらずアクの強い曲者を演じさせてたらピカイチで、今作でもユニークでクセになる演技が堪能できる。

謎めいた役で観客を翻弄するヘレンはジャネール・モネイが熱演。
ぼくはミュージシャンとしての彼女の大ファンなのだけど、女優としての魅力もたっぷりでミステリアスな妖艶さが素晴らしい。


総じて言えば前作よりもグッとライトでポップになったと言えるけど、シリーズの方向性が確立された記念碑的な立ち位置になるだろう。そしてその方向性はおそらく正解。
今のダニエル・クレイグにはこのくらい軽快な足取りが似合う。
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