とりん

ディア・エヴァン・ハンセンのとりんのレビュー・感想・評価

3.8
2021年100本目(映画館33本目)

トニー賞で6部門受賞し、グラミー賞やエミー賞にも輝いたブロードウェイの傑作ミュージカルを「ワンダー 君は太陽」のスティーブン・チョボウスキーが監督を務め、実写映画化。
劇中音楽を「ラ・ラ・ランド」、「グレイテスト・ショーマン」、「アラジン」といった大ヒットミュージカル映画の音楽を手掛けたベンジ・パセック&ジャスティン・ポールが担当した。
それもあってとにかく音楽が素晴らしい作品だった。最初の1曲目から心を奪われたし、思わず身体を揺らしたくなる曲もあれば、歌詞のメッセージに心を刺されたり、グッと温かくなるものもあった。ミュージカル映画であればどの作品も音楽には力入れているし、実際素晴らしいものばかりで、好きな映画も多いが、個人的に本作の音楽はその中でも随一のように感じた。

ミュージカル映画はストーリーがあまり凝ったものではなく、わかりやすく、サクセスストーリーも多いが、本作はそうでもない。以前からあったが近年特に問題・注目されている心の病、メンタルヘルスについて描かれたストーリーであり、主人公エヴァンの心の内が描かれている。ここまでダイレクトに描くと刺さるものも多く、少しでも心に何か抱えているものにとっては何か感じるものがあるし、少なからず勇気をもらえる。
特に最後のエヴァンが本当の自分をさらけ出した時、どんな思いで嘘をついたと分かったときに心が締め付けられたし、それを包んでくれた母の温かさやコナーの家族の(特に母)想いにもグッときた。

ただ個人的にはキッカケとなったエヴァンのウソがどうしても受け入れられなくて、悶々として映画が進んでしまった。もちろん彼が闇を抱えていたことも分かっていたし、どうしようもなくついてしまった嘘だとしても、とても受け入れられるものでもなくて、全然感情移入ができなかった。でも最後の彼が死のうとまでした事実を知って、その考えや気持ちはひっくり返った。エヴァンはここまで追い込まれていたのかと。でもそこまでのズレを取り戻すことはできなかった。
だからこそそれを知った上でもう一度観たいなと思った。

エヴァンの嘘もそうなのだけど、エヴァンの母の行動や考えもあまり納得がいかない部分はある。あれだけエヴァンをほったらかしにしておいて、最後はずっとあなたが一番というのはどうも。もちろん夫に出て行かれ、女手ひとつで息子を育て、必死に家庭を支えていた気持ちもわかるが、セラピーに頼りきりだし、お金が前面に出て、他には手を借りたくないということで、息子に肩身の狭い思いや寂しい思いをさせていることをわかってやれてないのはなんとも。
だからこそエヴァンの行動に重みが増すのだけれど、エヴァンが打ち明けた時の言葉にどうも腑に落ちなかった。

まぁそこは差し置いても良い映画だと思えるし、何度も言うが音楽が素晴らしい。
ミュージカルの割に台詞パートが多かったり、違和感が否めない歌パートの導入感だったりはあったかなぁ。だからこそ手放しで名作、良作だとも言えないところではある。
エンドロールでメンタルヘルスの番号が記載されていたり、終わった後にメッセージまで表示されたことには、この映画の訴えるところの大きさと徹底さには感服した。
ちなみに主役のエヴァン役は本家のミュージカル版でも演じたベン・プラット。母親役にはジュリアン・ムーアと彼女がミュージカルをやるのは驚きだった。他にはコナーの妹のゾーイ役は「ブックスマート」のケイトリン・デバー、その母シンシア役を「メッセージ」のエイミー・アダムスが演じた。
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