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梅切らぬバカのkuuのレビュー・感想・評価

梅切らぬバカ(2021年製作の映画)
3.0
『梅切らぬバカ』
映倫区分 G
製作年 2021年。上映時間 77分。
加賀まりこと塚地武雅が親子役で共演し、老いた母と自閉症の息子が地域コミュニティとの交流を通して自立の道を模索する姿を描いた人間ドラマ。
タイトルの『梅切らぬバカ』は、対象に適切な処置をしないことを戒めることわざ『桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿』に由来し、人間の教育においても桜のように自由に枝を伸ばしてあげることが必要な場合と、梅のように手をかけて育てることが必要な場合があることを意味している。
加賀にとっては1967年の『濡れた逢びき』以来54年ぶりの映画主演作となった。

山田珠子は古民家で占い業を営みながら、自閉症の息子・忠男と暮らしている。
庭に生える梅の木は忠男にとって亡き父の象徴だが、その枝は私道にまで乗り出していた。
隣家に越してきた里村茂は、通行の妨げになる梅の木と予測不能な行動をとる忠男を疎ましく思っていたが、里村の妻子は珠子と密かに交流を育んでいた。
珠子は自分がいなくなった後のことを考え、知的障害者が共同生活を送るグループホームに息子を入れることに。
しかし環境の変化に戸惑う忠男はホームを抜け出し、厄介な事件に巻き込まれてしまう。

小生の育った町には高瀬川って小さな川が流れてる。
昔は、舟が往き来し、材木などを運んだほどの川やったそうで(木屋町と云う道路名はこの辺りからきた)、森鴎外の小説『高瀬舟』では、
『徳川時代に京都の罪人が遠島ゑんたうを申し渡されると、本人の親類が牢屋敷へ呼び出されて、そこで暇乞いとまごひをすることを許された。それから罪人は高瀬舟に載せられて、大阪へ廻されることであつた。』
って由緒或川、舟が浮かぶほどの川やったそうやけど、小生が遊び場にしてた頃はショボ臭い川、錆びた古銭が落ちてる川ってイメージするよな高瀬川。
年の近い兄とよく高瀬川で遊んだ。
その、兄は肥満児やったが、すばしっこく、直ぐに木登るおバカキャラで(日本に来てあまり経ってなかったし日本語があまり話せなかったが人気があった)、ある時、高瀬川沿いに植えられてる一本の桜の木登り、ふざけてた。
調子にのった兄は幹から枝へと体を滑らせ登った。
その時、ボキッと枝が折れ、半ズボンからはみ出た半ケツ状態で漫画のよう高瀬川に落ちた。
その時、よく小生兄弟と遊んだ『お好み焼き屋のバカ◯◯ちゃん』(彼は成人してた。知的障害を持つ大人の対して失礼極まりないが、当時は親しみを込め『バカ』を付け呼んてた)もいて、兄が川に落ちた重大さよりも、兄の滑稽さを一緒に笑った。
『お好み焼き屋のバカ◯◯ちゃん』はゲラゲラとまさしく腹を抱え笑ってた。
『桜折り落ちるバカと、下で嗤うバカ』
なんて集まった大人達が笑い合い兄を助けてた。
助けもあり兄も大きな怪我もなく安心していたが、暫くして、兄が折った桜の木が枯れた。
近所の遊郭の遣り手ババァ(呼び込み)曰く、
『折れた桜の枝からバイ菌が入り、桜は枯れた』
と。
そこで、ババァは
『桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿』
と自慢気に云っていた。
当時は日本語が儘ならなかったし、ババァに持ってたメモ帳にその言葉を書いてもらった。
後で意味を含め調べたりしたので、小生が比較的早くに覚えた諺と云える。 
そんな風に、何気ない日常にも、学べる大人は沢山いたし、深い意味は分からずともやってよいこと、悪いことは町の大人から学べた。
また、知的障害や精神障害、はたまた身体障害を持つ人、また、小生も当時は日本語があまり得意ではなかったし、引込み思案(自閉症気味やったかも)やったにもかかわらず、なにかわりなく回りの人達は接してくれた。
そんな事をふと思い出しつつ今作品を視聴しました。

余談が過ぎましたが、比較的短い上映時間ですが正直、テンポが悪く感じたのは否めない。
しかし、主要なキャラを追いつつ、ふと、そこが今作品での監督の狙いなんかと、深読みはできますが。
また、繰り返されるほのぼの系音楽は、初めはよかったが後半は癇に触った。
とは云え、考えさせられる映画ではあったし、塚地武雅と加賀まりこの真剣な眼差しには心動くものはありましたよ。
自閉症という特徴的な役と、その母親って役やし難しくもあり、ある意味特徴が出しやすい役柄ながら、お笑い芸人と大女優の化学反応は興味深く観察できて楽しめました。
塚地武雅はお笑い芸人やと云うことを踏まえて巧みな演技をしていました。
まあ、塚地は『裸の大将』山下清で培ったモンが役に立つ演技でもあるし、先にも記しました、昔、よく遊んだ『お好み焼き屋のバカ◯◯ちゃん』を彷彿して、実際き、居そうな雰囲気を醸し出していました。
なかなかの当たり役やったと思います。
そんな息子の全て受け入れるデッカイ母ちゃん役を加賀まりこは形振り構わず演技に徹しているのは脱帽でした。
しかし、物語は、自閉症の方との接し方、老々介護の問題、グループホームの問題等々、結局結論は出ない。
でたら、社会がより良くなるやろし、出せないのやろけど。
実際に経験をされた方や、回りで諸々の話を聴かれた方ならいざ知らず、深い知識を有してない者にとって、寛容さを学べるよりも眉を潜めたりしかねないかなぁと懸念は残る。
短い時間で無理があるかも知れないけど。
贔屓目でも見終わると、『物語としてはどないやろなぁ』と考え込むしか無いのやはり問題提起のみで終わってるからと。
観終えた後にディスカッションなどする教材としてなら、今作品は十二分に物語力は発揮するとは思うけど。。。
今作品のタイトルは先にも記しましたが、
『梅切らぬバカ』は、『桜の切る◯◯云々』からの引用で、
樹木にはそれぞれ特性があり、その性質に合う適正な対応をすることが必要である
ちゅう戒めから転じて、学校教育や家庭教育、しいては、人間教育において、桜のように自由に枝を伸ばしてあげることが必要な場合と、梅のように手をかけて育ててあげるのが必要な場合がある。
これを取り違えてしまうと、社会にうまく適応できない人間が出来上がってしまうことがしばしばある。
そんな、意を秘めた物語故に教育教材としては良いとは思います(上映時間も比較的短いし)。
しかし、個人的にはどうも尻切れトンボ気味で不完全燃焼は否めません。
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