Anima48

ガンパウダー・ミルクシェイクのAnima48のレビュー・感想・評価

3.7
今は昔、レスカっていう飲み物があって正体はレモンスカッシュだったとか。そしてミルクセーキって名前は聞くけど飲んだことがない。多分スタバやドトールとかでなくてもっとレトロでポップな個人の喫茶店しか残ってないのかな?

ネオンサインから始まった時点から画面から目を離せなくなると思いきや、しばらくはシックな画面が続く。当初、図書館の開架棚やカウンターのレトロな雰囲気、サムの恰好はちょうど古めかしいハードボイルドの探偵のそれでトレンチとハットの組み合わせは一種のアイコンのようにも見える。それがボーリング場であのジャンパーに着替えてから、モダンとレトロを組み合わせたユニークな光景を見せてくれるようになる。そこからボーリング場、病院、駐車場、ダイナーとステージは変わっていく。ピンクやブルーのネオンライトや明るい光をバックに、少し暗い光景だけど鮮やかな画面。ウッド調の丁度品が照り焼きのように暗い中光り、ポップなものは派手な着色料のお菓子のように猛々しく映える。そんな中無口で不機嫌なのにポップな外見のサムがモリコーネ風の口笛に乗って歩くだけでも楽しい。

女性が主役、そして善玉は全て女性、悪漢は全て男性というこの映画。これまでの映画に出てきた女性キャストにまるで税金のように課せられてきたイベント、例えば恋愛やセクシーなあれこれなんて一切ない、そんなものに頼る気もない。それが良かったし、よく考えたら見てるこちらもそれを全く気にしなかった。そしてベテランの女優にしっかりしたアクションの見せ場があってそれぞれ性格もスタイルも違うのも素敵。“デボラウィンガ―を探して”で提示されたハードルがまた越えられた気がする。

ストーリーはシンプルだけれど、素敵なキャストのアクションとこじゃれたギミック、世界観で飽きなかった。日本語混じりのポップで子供っぽいデザインのあれこれ、ジョン・ウィックやキングスマンのような風変わりな組織が機能して、ガラケーが大活躍でスマートフォンは出てこないでカセットテープが活躍中、そんな時代なのかも知れない.図書館収蔵のジェーン・オースティン」「シャーロット・ブロンテ」「ヴァージニア・ウルフ」等当時の女性の立ち位置を超えた著作には、強力な武器が隠されている。他の作家ならどうなるのだろう?J•Kローリングは?ジョージ・エリオットやパール・バックはどうだろう?紫式部の著作を開けたら手裏剣か日本刀でも入ってるのだろうか?入ればの話だけれど。

現在たくさんの映画で色んなアクションシーンがあって、あるものはリアルな暗殺術や特殊部隊のような軍隊で使われる技術を披露する。そしてほかの映画ではCGやワイヤーアクションを駆使して、今まで見たことがない光景や動きを見せてくれる、他にはヒーロー物の文法というか様式美で見せてくれたり、合間合間に見せてくれる人柄やフランチャイズのファンを裏切らない動き、火薬の量や扱う武器や武術等色々手を変え品を変えこちらを楽しませてくれる。でもこの映画のアクションは動きに制限を加えて見せてくれた。・・麻酔で両手が利かない状態で銃やナイフを使うにはどうするか、自分が動けないときに子供に運転を任せるとどうなるか。様々なアクションシーンを見慣れてしまったような(まだまだ見知らぬ映画は当然あるけれど)こちらには新鮮な驚きだった。誰か格闘技に詳しい人が言っていたけれど、なんでもOKというルールになると結局基本的な動作・技が威力を発揮することが多くなる、逆に蹴りパンチなどだけOKとか、掴んで投げてだけOKというルールになるとそこからすごいテクニックが発達してくるとか。今回自由が利かない手で遠心力を使うような銃撃戦、二人羽織のようなカーチェイスを見ると本当にそう思った。そこに薬物に酔ってしまったような悪者がカートゥーンのような笑い声でからんでくる、本当に楽しい。綱渡りのような緊張感と思い切りたるんだ感じの笑い遊び心が両立していたように感じる。それに斧やチェーンといった道具を巧みに使う彼女沢山は凄みがあった。男性達は集団自殺をするように団体バスでサム達の下にやってきて、ポテトチップスが次々食べられていくような軽さで男たちがやられていく。だけれど、サムの左頬にうっすら残る切り傷痕を見ると人を傷つけてしまうことの重さも描かれていたような気がする。

20世紀のおじさんの頭を20‘Sに無理やりアップデートさせたお仕着せのようなフェミニズム感の披露が愉しい。世間から疎外感感じているんだなって、世のおじさんの本音って案外そんなものかもしれない。

・・映画に出てくる暗殺者って必ず一度は仕事に失敗するような気がするなあ。ミルクシェイク、飲んでみたいけど、ミルクセーキのことなの?
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