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レッド・ロケットのbackpackerのレビュー・感想・評価

レッド・ロケット(2021年製作の映画)
3.0
"有害なほど利己的で、破壊的にナルシスト。
落ちぶれた元ポルノスターが夢見る大迷惑なサクセスストーリー。"

アメイジング・不良中年・ストーリー!

口先の魔術師、無一文のホームレス、ポン引きのロクデナシ、それが本作の主人公・マイキー!
別居中の嫁の家に上がり込んだマイキーの、やることなす事全てクソ!
昔の伝手でハッパを仕入れ、石油精製場の工員達に捌きながら、ドーナツ屋で働く17歳の少女"ストロベリー"に活路を見いだす、ホンマモンのゲス!
徹頭徹尾どクズな主人公が、自分さえも騙くらかしてひたすら陽気に突き抜ける様は、ハマる人には最高かもしれません。
実際、マイキーを巧みに演じたサイモン・レックスは、役柄と自身の半生が重なるというハマり役ということもあり、本当に素晴らしい演技でした。
ただまあ、この作品は、陽性の人間向きな気がするんですよね。
自分みたいな根暗陰キャ君からすると、イラッとしたりムカついたりはしましたが、楽しめたかというと、ウーン……イマイチ。

ただ、全然面白くない映画であれば、もっと色々言えたのですが、作りまして面白いところが多かったこともあり、なかなか評価し辛くもあります。
例えば、本作の時代設定。
作中のTV番組から、2016年のアメリカ大統領選挙の時期が舞台とわかりますが、分断の時代を表層化させた2016年の選挙を背景にしたことで、作品の奥行きがグッと増していましたよね。
アメリカの貧乏白人労働者階級が、自分たちのアイデンティティを守るべく必死にイキリ散らかす。マイキーのナルシスティックな自己アピールも、隣人ロニーの兵役詐称問題も、男性的であることを良しとするマチズモ至上主義(アメリカン筋肉崇拝)の毒が原因であり、社会問題の根深さがパッパラパーなマイキーで濾過されて、ノイズになりにくい。ウーン……上手い。

もっとも、自分みたいな根暗陰キャ君(2回目)からすると、生きるのが辛い環境だなぁと悲しくなりますし、腐れ外道のマイキーを見続けることには苦痛を感じていましたので、可もなく不可もなくと言わざるを得ません。自分ごととして捉える必要はありませんけど、共感という意味では、どうもね。
とりあえず、130分は長いです。長すぎます。急転直下の大転換が起きる100分頃までは、マイキーのクソ馬鹿タレなアレコレをひたすら見続けさせられて、辟易としていました。
ま、要するに、ノリが合わなくて興醒めしてたって感じです。

これまで見たショーン・ベイカー監督作品の中でも、一番見る人を選ぶ作品だった気がしますね。
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