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ニトラム/NITRAMのkuuのレビュー・感想・評価

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
3.7
『ニトラム/NITRAM』
原題 Nitram.
映倫区分 G.
製作年 2021年。上映時間 112分。
1996年4月28日、オーストラリア・タスマニア島の世界遺産にもなっている観光地ポートアーサー流刑場跡で起こった無差別銃乱射事件をオーストラリアの俊英ジャスティン・カーゼル監督が映画化。

事件を引き起こした当時27歳だった犯人の青年が、なぜ銃を求め、いかに入手し、そして犯行に至ったのか。
事件当日までの日常と生活を描き出す。1990年代半ばのオーストラリア、タスマニア島。
観光しか主な産業のない閉鎖的なコミュニティで、母と父と暮らす青年。
小さなころから周囲になじめず孤立し、同級生からは本名を逆さに読みした『NITRAM(ニトラム)』という蔑称で呼ばれ、バカにされてきた。何ひとつうまくいかず、思い通りにならない人生を送る彼は、サーフボードを買うために始めた芝刈りの訪問営業の仕事で、ヘレンという女性と出会い、恋に落ちる。
しかし、ヘレンとの関係は悲劇的な結末を迎えてしまう。そのことをきっかけに、彼の孤独感や怒りは増大し、精神は大きく狂っていく。。。

今作品あとがきで、『公開時点で、オーストラリアでは1996年よりも銃器の保有数が増えている』
ちゅうような注意書きがある。 
これは誤解や混乱を招くかな。
シドニー大学の2021年のデータによると、オーストラリアでは、銃の免許を持つ人がより多くの銃を購入している一方で、銃の免許を持つ人の数は減少しているとしてる。
銃の免許を持つオーストラリア人の割合は1997年以降48%減少し、銃器を持つオーストラリア人世帯の割合はここ数十年で75%減少しているそうです。

今作品は、1996年4月28日から29日までにポート・アーサーで36人を殺害し、オーストラリア史上最大の単独犯による大虐殺を引き起こしたタスマニア出身のマーティン・ジョン・ブライアントの生涯を描いたものでした。
ブライアントは当初から精神的な問題を抱え、他人に対して攻撃的な行動をとり、人の安全に対する配慮が欠けていた。
終身刑を宣告された後、ブライアントはアスペルガー症候群と診断され、IQは66と11歳児とほぼ同じであるとされた。
映画のタイトル(マーティンの綴り逆さ表記NITRAM)は、ブライアントが幼少期にいじめっ子からつけられたあだ名に由来し、人間関係の形成に支障をきたすようになった。
アメリカ人のケイレブ・ランドリー・ジョーンズは、主人公をほんま見事に演じ、誰かがどこまで別世界(違う世界)に行くことができるかを示していた。
ジョーンズは、『スリー・ビルボード』(2017年)や『ゲットアウト』(2017年)とかの映画で脇役を演じて、その名を映画界隈で少しずつ知られるようになってきたんかな。
初の主役で、彼はおお化けしてました。
ホラー映画の悪役から受ける恐怖を演出しながらも、映画の地に足の着いたトーンに合うような十分な信憑性をもたらしてました。
また、ブライアントの年上の伴侶で、14匹のワンちゃんと数十匹の猫と一緒に古びた屋敷で一人暮らしをしているヘレン役には、ジャスティン・カーゼル監督とのコラボレーションが多いエフィー・デイヴィスが出演してます。
ブライアントとヘレンは、社会から追放された身分に基づくつながりを形成し、ジョーンズとデイヴィスはそれを探求することができる。
ブライアントとヘレンは、社会から排除された存在であることを前提に関係を築き、ジョーンズとデイヴィスはその関係を探る。
アンソニー・ラパーリアとジュディ・デイヴィスは、ブライアントの両親を巧みに演じ、息子の安全を守るためにどうすべきか、異なる見解を示している。
ラパーリアは、ブライアントが自分で世界を切り開くことを期待して自由を与えることを好み、デイヴィスは、ブライアントにはそのようなことができないので、短い鎖でつないでおかなければならないと考えている。
ある国の最悪の犯罪者についての伝記映画を作ると、加害者の正当性を主張したり、彼らが引き起こした被害を美化したりと、多くの落とし穴が待ち受けている。
ジャスティン・カーゼル監督はそうした誤りを避け、この出来事がなぜ許されたのかを説明するためだけに、淡々としたスタイルでこの映画に臨んでいます。
ジャスティン・カーゼル監督は、彼が得意とする派手なスタイルを捨て、俳優とシンプルなカメラワークに物語を語らせていました。
ガス・ヴァン・サント監督の『エレファント』ちょい思い出していたかな。
なぜ、このようなことが起こったんか、
どないすれば止めることができたのか、
その答えは一つやないと思います。
しかし、ブライアントが起こした事件によって制定された銃刀法が適切に施行されず、再びこのような事件が起こる可能性があることを、あとがきで強調(方便もつかい)しているように、ジャスティン・カーゼル監督はあまり期待をしていないんかな。
ジャスティン・カーゼル監督の『ニトラム/NITRAM』は、現実の悲劇を優雅さと厳しさの両方で表現した善き作品の1つでした。
今作品を観て、あまりの激しさに筋肉が硬直して、体はその体験を嫌ってました。
しかし、心は、人類の歴史におけるこの暗い章をよりよく理解したままです。
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