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エッフェル塔~創造者の愛~のbackpackerのレビュー・感想・評価

3.0
"愛か、成功か。"

正直メロドラマがそこまで好きではないため、男と女の愛だ恋だ、惚れた腫れたの紆余曲折については、ぶっちゃけあまり心動かされません。「なら最初から見に行くなよ」と言われそうですが、空き時間に見られる映画があって、多少なりとも興味を惹かれるなら、見てしまうんですよね。
実際、暇すぎて見た粗製乱造キラキラ映画に、げんなり辟易して帰る事態と比べれば、はるかに楽しめました。
本筋の恋愛劇(不倫模様)が、パリのシンボルモニュメント誕生譚というサブプロットを盛り上げるエンジンの一つとして機能していたこと(因果関係的には逆転していると思いますが)。
作中の舞台美術の作りこみが生み出す1800年代終盤のフランスの風景が素晴らしかったこと。
これだけでも、十分に見てよかったと思えます。
それで言うと、ちょうど今日(2023/4/14)から公開の『幻滅』も、本作より少し前の同時代フランスを舞台としており、美術が素晴らしい印象です。
余談ですが、2023年の3~4月は、フランス映画が大量に公開されていて、渋滞を起こしてるんですよね。全部見られるかな……。

閑話休題。

本作で一番気になった人物は、ロマンティックな世界観に没入しているギュスターヴとアドリエンヌの二人ではなく、アドリエンヌの夫で新聞記者のアントワーヌ・ド・レスタック。

アントワーヌという人物について考えてみましょう。
彼は、病院に入院していたアドリエンヌ(即ち、身籠っていたギュスターヴとの子を失った上に彼と離れ離れになり、身体に傷を負い、家族からも捨てられた、人生のどん底状態)と出会い、彼女を支え、愛を通わせ、ついには結婚した好青年。
学生時代の友人だったギュスターヴと久しぶりに再会して以降、彼の鉄塔建設プロジェクトをマスコミサイドとして応援し、コンペを勝ち抜くことができた立役者の一人。
だというのに、ギュスターヴからは、恩を妻のNTRという仇で返される始末。
噛ませ犬の役割とはいえ、気の毒です。まあ、後半は陰湿な攻撃とあからさまな態度でガンガン嫌な奴へと向かっていくので、感情移入はしにくい構造ですが、ミニマムないち家庭で起きた出来事と考えれば、「妻の不倫相手が旧友だった件」というしょうもないもの。

二人の逢瀬が情熱的愛の世界として美化して描かれているから忘れがちですが、間男との戦いという視点では、アントワーヌのドラマもかなり起伏のある葛藤構造を持っていて、見ごたえがありそうです。
その後のアドリエンヌとアントワーヌの生活は破綻をきたしそうですが、そこは想像するほかありませんね。
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