このレビューはネタバレを含みます
クサイ!
見ている間ずっとクセー!の連発。丁寧に作られているのはわかるけど、説明セリフとかセンチメンタルでポエミーなセリフが多くて、それが物語に馴染んでないから見ているこちらが気恥ずかしくなります。
物語全体を通しても、「感動させよう!」という意図が恥ずかしげもなく裸のまま詰め込まれている映画。
キャラクタや背景、シチュエーションが弱いままポエミーな台詞回しだけが頻出するで、説得力がなく胸に響きません。
個人の感想としては、見て何も得るものは無かった、と断言できる映画でした。大人向けでも子供向けでもありません。
この映画が好きな方、本当にごめんなさい。
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制作スタッフの丁寧な仕事や、やりたいことはすごくよく伝わってきました。最後のオチのアイディアは嫌いではないのですが……
「やりたいこと」のために全ての要素がお膳立てられているような映画で、各所の違和感が放置されています。
「このキャラクターだったらこう行動するだろう」と言う自然さと「こういう物語にしたいからこう行動させたい」という制作の都合の折り合いが取れていないので、重要なシーンほど違和感が多いです。何でこいつこんなことするんだ?と思うようなシーンの連続。
これに関してはあるシーンを取り上げて、具体例を最後の項目で解説します。
●ストーリー
言及されている方が多いですが、私もスタンドバイミーを彷彿とさせるなと感じました。
線路はないし、3人だし、各設定は違うのですが、ジュブナイルである点、子供だけの小さな(だけど本人たちにとっては大真面目は)大冒険である点が類似しています。
しかし、スタンドバイミーを意識して作ったとしたら大失敗。いいところの何も取り入れられていないので、ただ偶然似た雰囲気になっただけであって欲しいです。
山火事の原因が自分たちではないと証明するために、操作不能で山の向こうまで流れてしまったドローンを見つけ、映像データを回収しようとする3人の旅路が描かれます。
スタンドバイミーのような言語化が難しいジュブナイルを描くのかと思いきや、宝物を探そう!とか、生とか死が関わってくるテーマはっきりしていましたね。
なんというか、この重さのテーマをするなら、も少し丁寧に作って欲しかったです。テーマと映画の表現の釣り合いが取れていないせいで、チープに感じてしまう部分もあります。
子供向けなのかな?とも思いましたが、だとしたらもっと竹を割ったような吹っ切れた作風の方が良かったと思います。どっちつかずの中途半端で、ただただぼんやりとしていて響かない。
雰囲気だけの映画でした
●作画
作画に関してがまた絶妙なラインで、連続アニメよりも丁寧だし、全体的に整っていて綺麗。ではあるけど、綺麗なだけって感じでした。
印象に残るカットは特に……。快活なアニメーション、特別な映像体験というものは得られませんでした。
●なぜ感動できなかったのか考察
①セリフが臭すぎる
例えば、ドローンに関しての意見が割れた際のドロップのセリフ
「空から見下ろしてみたくない?」
「花火を?」
「世界を」
この感じのセリフ多くなかったですか?多感な思春期の発言然としていて、エモい作品でしょ!感性刺激!みたいな温度のセリフが多い。
歯がゆい感じの、クサい台詞回しのオンパレード。
しかもこのシーン、この直後唐突に「もし明日世界が滅びるとしたら、何を後悔する」って謎の話題を真面目なトーンで振ってきて、突然自分語りを始めますよね。重ねすぎ重ねすぎ。製作陣暴走しすぎ。心理に触れるような抽象的な話とか感情的な話題って、タイミングがかちりとハマれば胸に深く降りてくるけど、突然投げられても気恥ずかしいだけ。
トトもロウマも「?」ってなっているけど、私も「???」
兎に角、こんなレベルのくさいセリフが多い。無駄にポエミーで、見ていて苦くなる。わざとらしい演出が素直に受け取れないです。。。
「もしも明日世界が滅ぶとしたら」
というセリフは、作中でドロップの口から何度か発せられます。意味ありげだし、明らかに空気も違うし、「トトは本当に世界が滅ぶ未来を知ってる」か「トトはもうじき死ぬ」かの2択じゃないですか?と思えるような……あからさますぎるので、そこで設定を捻ってくれるかと思いきや、ほんとーうにそのまんまで……
あ、やっぱりそうなんだ……という。
演出的には「衝撃!」「ショック!」「悲しい」って感じでしたが、全然そんなふうに共感できなかったです。
②キャラが浅い1
何も、クサイセリフが全部ダメなわけじゃないんです。
これはアニメだし、創作だし、映画だし、物語なんだから、許されているんですよ。
でも、手放しで許されてるわけじゃないですよね。発言するキャラクタの人物像とか、性格、思想、行動、タイミング、演出、そこから裏打ちされた深みが合わさって、説得力があって、胸に響くセリフになるんだと私は思います。ただの文字も、歌詞になってメロディに乗って聞こえてくると、あ、いい歌詞だなと思えることがあります。臭いセリフも、映画のセリフになると途端に染み入ってくる言葉になると思います。
でも、臭いセリフを言わせるまでの土台作りがこの映画でなされていたかと言うと、全くなかったと感じるんですよ。だから、セリフだけが浮いてて恥ずかしい。
たとえば、さっきのセリフ「世界を見たい」からの一連の流れだって、作中のキャラクターは事情を知らなかったとしても、例えば鑑賞してる側は事情を知っていて、セリフに込められた真意とかキャラの心情が拾えるから「いいな」と思える可能性があったかもしれない。
でも、この時点のドロップ、私たちからしたら何の思い入れもなくて、背景もわからなくて、性格も、なんなら生きてる人間なのかもわからなくて、どう言う立ち位置のキャラクターなのか把握もいまいちできていないと思うんです。そんなキャラクターが突然話題から外れて空想っぽい自分語りを始めても共感できないし……
2週目そこだけ再生してみたのですが、まあ一応、「あー」とはなりましたが。ただ、やっぱり何でこのタイミングで自分語りするの?って臭く思えるんですよね。2週目見たくなるほどの面白さもないし
③くさいことをスタッフも理解してる
この映画、クサイセリフを言った後、本人が恥ずかしがったり、まわりが「は?」って反応するシーンが、前半は特に多いんです。
作中でもみんなが「は?」と思う言い方・タイミングのセリフは、私たちも同じように「は?」となりますよ。演出でそれを自然に作品に溶け込ませるのが、作品を作るってことだと私は思うんですが、それを完全になおざりにしているのに、心に響くシーンにできるはずがない。
若干ですが共感性羞恥も発動して、いたたたたた……ってなります。
④キャラが浅い2
キャラの浅さについては、セリフ関係なくそれ自体がかなり致命的だと思っていて……
だって、キャラクターが全然好きになれないと、何にも感情移入できないんです!
個人的には各キャラクタのデザインもテンプレ貼り付けたみたいな凡庸なものに見えてしまって。
ドロップだけ特殊でしたが、好みではないって言うのも個人的には大きいかな……
ロウマとトトは、本当に特別な魅力を感じないです
どっかで見た見た目。どっかで見たキャラ。もう2.3捻りくらい欲しいですよね。
ロウマは友達いなさそうだなって思うけど、トトは友達普通に作れそうなのになんで爪弾きにされてるのか……
まあ、設定的にガリ勉で友達付き合い悪かったのかなって感じですね。嫌われたりいじめられたりしていたたしても、性格とか気質の問題じゃなさそう
一番謎なのはドロップ
佐久間雫
ロウマとトトに関しては、幼馴染?っぽくて、集団に馴染めない者同士、昔からお互い支え合って唯一無二の親友というか、ニコイチ的な関係性だったのが説明されなくても伝わってきます。
ドングリーズというのは、2人にとって特別な関係性のはず。
なのに、ドロップは映画に急に現れて、当たり前のようにドングリーズに入ってますよね。それだけの繋がりや関係性を得るには、それなりの背景があって然るべきなのですが、どんな部分が意気投合したのかはもちろん、出会いに関しても全く明かされず、背景がわからないままぬるっと友達やってる彼。その不思議な感じはわざと演出されたんでしょうけど……一番重要な役割を持っている存在なのに、詳細が把握できない演出ははっきり言って最悪のチグハグさだと感じました。
そんなキャラがいちいちエモいことを言っても、何も説得力がないし……本当に、君何者?という感想で頭の半分が埋まりながら見てました。
⑤ドロップの死
はっきり言って、感情が置いてきぼりにされました。
深掘りもされず、好感度も上がらない、正体不明のキャラクターが、死にましたーと描写されても……悲しめない。そもそも宇宙人とか、なんなら幽霊かな?とも思っていたくらいだし。
こちらが知っている情報としても、ドロップ、トトとロウマと一夏の冒険をしただけなんですよね。なのに、トトとロウマの悲しみ方の激しさが、一夏友達やった人の死を知らされた感じではなくて……。
もっと、信じられない……って感じで受け入れられなかったり、まだ生きてる気がするって言って不思議と悲しくなかったり、そんな感じじゃないんですかね……
ぶっちゃけ悲しみ方の詳細は別に何でもいいんですが、結局トトとロウマと同じくらいのドロップが好きで身近に感じられるようにストーリーが作られていなかったので、私だけが悲しめないみたいな……ぼけーっと見るだけの映画になっていました。
私に与えられている情報と、私の感情と、画面内のみんなの感情がどんどん乖離していくんです。
⑥ドロップの正体・他の不思議要素
そもそも、重めのテーマで、ロウマとトトの日常に関してはわりとリアルな学生感があるのに、ドロップが関わってくると一気にオカルトっぽくなるのも、ややもやもや。
金髪の少年、あきらかに年齢不相応の見た目
ドロップくん、もう死んでる幽霊なんじゃないかな?とも思うんです。だって、15歳で黄金の滝探ししてた時と服もボードも見た目も同じ。
電話で最後に宝物を与えてくれた2人の元に、霊として現れて一夏だけ一緒に過ごしたのかなって。だから、霊的な力で自然にドングリーズに溶け込んでて、、、。だから出会いのシーンとかは描かれていないのかな?って
でも、そう断定するにはヒントも考察材料も少ないんですよね。
そもそも、15歳の少年が身一つでアイスランドの広大な滝探しなんて非現実的ですし、ありえないと思いませんか?装備も少ないし、何でそんな無理のある設定を、なんの補足も無しにねじ込んだ??
オカルトっぽさとか、幻想的な感じとか、嫌いじゃないんですが、納得感がなくて、全部がふわふわしてて……もやもや
アイスランドで電話を取って、その相手が日本人ってことは言語でわかったのかもしれないけど、どこの誰かまでは特定できないだろうし。ちゃんと辿り着いて仲良くなってる時点で、もう生きてる人間じゃないのかなぁ。
作者の中じゃ正解があるのかもしれないけど、ある程度鑑賞した側にも回答を委ねられるような表現やヒントをはっきり盛り込んでくれないと、中途半端
もしドロップが幽霊だとしたら、2人にお礼にを言いに来たり、宝物になってくれた2人の悩みを解決するための救いや導き手のポジションの方がしっくりくるはず。自分は死んでいて、もう超越してる存在なんだから。
そのわりには、もうすぐ死ぬって匂わせまくるし、思い出とか宝物に執着していて、「生きているうちに見つけたい」という生故の執着を感じるんです。2人を巻き込んだことへの後悔の仕方とかも生々しいし、自分のために楽しんでる感じの生き様が、、、まさに生きている故の生々しさ。でも生きてたとしたら、どうやって2人に辿り着いたの?って感じだし
もやもや
熊のいないはずの山で熊に出会ったのは何故?青春の不思議で済ませないで、ちゃんと理由付けてほしい
熊のシーンがこの映画に必要かと言われたら別に要らなかったわけだし
いらなかったものを盛り込んだのには、盛り込まなければいけない意図があってほしい、、、
この映画、「エモい」って言葉に似ている。
なんとなく良いもの、感動、情緒、感情の昂り、巧妙さ、運命的な合致、偶然や必然をすべてこの言葉で表現するけど、その実この言葉自体はスカスカで何よりも意味のない殻のようなもの。
⑦登場人物の皆がポエミー
これも萎えポイント
この映画、登場人物みんながポエミーで臭いセリフを言うんです。個性がない
こんなポエミーなこというキャラ、1人いればいいし、2人でも多いのに
最後チボリちゃんもポエムをメッセしてきた時はゾッとしました。
1人くらい「楽しい!」「悲しい!」「最高!」とか、語彙力死んでいてわかりやすくストレートなキャラがいてもいいでしょう。
みんながみんな突然くさいセリフを言うから、スタッフや作者が考えた「エモい」セリフや表現を発せられるだけのスピーカーになってしまってるんです、キャラクターが。
キャラクタの語彙や表現の癖が同一作品である程度似通ってしまうのはしょうがないと思います。ジョジョなんかは逆にそれがクセになったりするんですが、この映画はキャラの個性も分けられていないし、最悪の形でそれが出てしまっています。
くさいセリフ言うためだけのキャラ、作者の意図を伝えるためだけの行動、セリフ、人形、展開。
それぞれのキャラクターの言葉じゃなくて作者の言葉だなって、キャラクターを通して見えてしまうこと以上に残念なことに、ないですよね
⑧演出のための違和感
これが最後にして最大のつまんないポイント。
演出のために違和感のあるシーンがそのままにされてることが本当に多い。
今まで語ってきた全ての要素が詰まってるシーンが一つあるので、解説します
それは、ロウマがチボリちゃんにアプローチできなくて、トトが代わりに電話かけてあげるシーン!!!
ここのセリフ書き起こします
「1人で立ち向かおうとするからビビるんだ!お前の15歳最後の勇姿を見せつけろ!ここでしっかり見届けてやる!信じて進めば、欲しいものは手に入れられるはずなんだ!!!!!」
はい、まず、くさい!!!!この上なくくさい!説教くさいし、無駄に長いし、「いいセリフ」を言わせようとしてる感が激しいですよね。
まず、シチュエーションに関してですが、友達が好きな人にアプローチできなくて、それを応援するためにお節介で勝手に電話を繋ぐ
まぁ、あるあるだけど、青春っぽくて好きです
でもそれからの行動や発言が不可解で……
だって、通話が繋がってるのに、ロウマじゃなくてトトが大声で啖呵切るのおかしくないですか?通話つながってるの気づかなかったとしても、途中で繋がるかもしれないのに、あんな大声であんなこと言わないですよね。
あのセリフが聞かれたら、チボリちゃんは「は?」ってなりそうだし、最悪間違いや迷惑電話だと思われそう。
仮にロウマに会話がつなげても、友達にあんな背中押されて電話してきたとか、知られたらなんか格好悪いじゃないですか、そういうのとか考えないのか?
セリフの内容に関しても明らかにおかしくて、
「1人で立ち向かおうとするからビビるんだ!」
って言うセリフはまずこの状況じゃ出てこないだろう。一緒に立ち向かおう!って状況じゃないし。これはドロップが聞いてること大前提の導入ですよね
「お前の15歳最後の勇姿を見せつけろ!ここでしっかり見届けてやる!」
これはわかる。これなら、ロウマにもドロップにも繋がるセリフとして成り立つ。でも
「信じて進めば、欲しいものは手に入れられるはずなんだ!!!!!」
これは完全に蛇足。100%ドロップ用のセリフですよね。
だって、信じて進めば!とかいう大それた行動じゃないし、彼女が欲しいって言うのが目的だと思っていたセリフだとしても、女の子に電話をかけさせる煽りで「欲しいものは手に入れられる!」って表現しないだろ!!!!!!!!失礼
完全にドロップが聞いてることが前提のセリフ
もっと言えば、この後、ロウマここまで言われて無言で電話切るのもおかしい。
今のセリフだけチボリちゃんに聞こえてるのも変だし、こんなに押されたら一言くらい話せばいいだろってシーン。
これも、会話できちゃうと都合が悪いからでしょ?
でも、意を決して会話させればよかったと思います。その方が流れが自然だし。それで、電話に出ようとした瞬間向こうに切られる、それで、チボリちゃんに落胆されたと思ったらロウマはインスタもやめてチボリちゃんを諦める……とかの方が全然行動もしっくりくる
演出の細かい変更で消える違和感がぜーんぶ放置
冒頭でも書いた通り、「このキャラクターだったらこう行動するだろう」とか、「これはこうなるだろう」という自然さと「こういう物語にしたいからこう行動させたい」「こういう展開にたい」という制作の都合の折り合いが取れていない。無理やりくっつけてる感じ。
はっきりいって、脚本、構成、全てプロの仕事ではないと感じます
アニメーションとしてのクオリティや声優さんは豪華だから成り立ってるけど、脚本だけのクオリティは、やりたいこと、パッションだけで作った不親切な映画って感じです
●好きなところもある
黄金の滝の近くに赤い電話ボックス
ホラーかよって感じだけど、このオカルト感は好き
ただの心象風景とか空想境じゃなかったのがこの映画でいちばんの驚きだったかも。
電話ボックス、何でそんなところにあるの?と言う疑問はあるし、電話線なんでそこだけ通ってるの?という疑問もあるけど。