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攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争のymdのレビュー・感想・評価

3.9
ネットフリックス限定公開だったアニメシリーズ全12話を劇場公開用にエディット。

次シーズンありきの内容なので今作単体での評価としては難しいけれど、総集編としての機能性は担保されている。

2時間足らずの中に情報を凝縮しているのでやや性急感は否めないものの、ログラインの核に注視したストイックな再構築により、作品本来の持つテーマをはっきりと露出させることに成功している。

これは監督を務めた藤井道人の功績に拠るところが大きいはず。
あえて攻殻機動隊というコンテンツの外的存在(あえて異物とも形容したくなる)を取り入れることで、カルト化した攻殻をあえて俯瞰で捉えて明快化させているのだと思う。

藤井道人という映画作家のフィルモグラフィにおいてはかなり異色の作品ではあるけれど、同時に重要な軌跡となることは間違いない。

本作は”第3の攻殻機動隊"である名作アニメシリーズ「Stand Alone Complex」の続編であるけれど、キャラクターデザインをイリヤ・クブシノブが手掛け、映像表現もフル3DCGを完装することでシリーズの刷新を図った意欲作である。

この大きな転換はファンからの賛否両論を生んだけれど、個人的にはこの変化は歓迎で、攻殻機動隊の持つ世界観と3DCGの映像表現の親和性が高く作品への没入感がより高まっていると感じる。

2Dをただ3Dに置換しただけ、という安易なものでは到底なく、画面の奥行きを生かしたダイナミックなアクションは「3DCGだからこそ」の創造的驚きと楽しさに満ちている。

イリヤのキャラデザインも秀逸。
草薙素子以外は基本的にはSACシリーズを踏襲しているものの、経年変化を落とし込んだやや草臥れた姿態のトグサやバトーがなかなか滋味深い。

草薙素子の大胆な変貌には少し面喰らったが、その美麗でキュートなヴィジュアルは平たく言えば素晴らしい。SAC版よりも小柄で華奢な体躯にしたことでアクションの躍動感を増しているのは確信犯だろう。

攻殻機動隊らしいサスペンスフルで難解なテーマは健在で、現実世界のAI革新の潮流を機敏に反映させた絶妙さと、サステナブルウォーという舞台設計が妙に居心地の悪いリアリティを有している。

神山健治は押井守に比べてエンタメ性を重視した攻殻機動隊の創造に腐心してきたけど、本作はよりキャッチーでエモーショナルだ。
その点に不満を抱く人が多いのも頷けるけど、SAC攻殻の新作が観れる、というだけで加点多めになってしまうのは仕方ない。
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