kuu

私ときどきレッサーパンダのkuuのレビュー・感想・評価

私ときどきレッサーパンダ(2022年製作の映画)
3.7
『私ときどきレッサーパンダ』
原題 Turning Red
製作年 2022年上映時間 100分
映倫区分 G劇場公開日 2024年3月15日映画のことなら映画.com
ピクサー・アニメーション・スタジオによる長編アニメ。
親の前で本来の自分を抑えていることに悩む少女メイが、ある日突然レッサーパンダに変身してしまったことから起こる騒動や、変身の裏に隠された秘密を描く。
監督は、ピクサーの短編『Bao』を手がけ、アジア系女性で初めてアカデミー短編アニメーション賞を受賞したドミー・シー。
Disney+で2022年3月11日から配信。
第95回アカデミー長編アニメーション賞ノミネート。
2024年にはコロナ禍で劇場公開が見送られた他のピクサー作品とともに劇場公開が実現

伝統を重んじる家庭に生まれ、両親を敬い、親の期待に応えようと頑張るティーンエイジャーの少女メイ。
母親の前ではいつもマジメで頑張り屋でいる彼女だったが、本当は流行りの音楽やアイドルも大好きで、恋をしたり、友達とハメをはずして遊んだり、やりたいこともたくさんある。
母親の前で本当の自分を隠す日々を送るメイは、本当の自分がわからなくなり、感情をコントロールすることができなくなってしまう。
悩んだまま眠りについた彼女は、翌朝目を覚ますと、なんとレッサーパンダになっていた。
突然のことに驚くメイ。
しかし、その変身の裏にはある秘密があった。

華やかなエンタメ作品であるだけでなく、ピクサー作品はしばしば、あらゆる年齢層の観客が楽しめるよう、巧妙に隠されたメッセージやテーマを含んでいる。
例えば、『インサイド・ヘッド』(2015年)やと、人生における不幸な出来事に対処することで、より幸せな人間に成長することを扱っているし、『リメンバー・ミー』(2017年)では、自分だけでなく愛する人のために素晴らしい遺産を残すことの重要性を示している。
どちらかと云やぁ、このようなことを映画に挿入するのはピクサーの伝統のようなモンで、思春期を迎えるというかなりタブーなトピックに触れた今作品もそうかな。
本質的に、今作品は、女性へと成長する少女たちがどのようなものであるべきかについての、それほど微妙ではない比喩であり、古い子供じみた習慣から成長することへの言及や、月の時期についての暗示さえ含まれている。
ディズニーが維持しようとしているクリーンなイメージを考えると、このようなテーマの映画の製作を許可したことは大胆やけど、個人的には製作陣に拍手を送りたいかな。
見ている若い女の子たちが、やがて大人になるにつれて自分の体に変化を経験するのは避けられないことなんやから、このような映画が、このようなことを経験するのは普通のことなのだと理解させることは、慰めになるはず。
メイがレッサーパンダに変身し、徐々に自分の感情をコントロールできるようになることで、多くの若い女性の観客には、責任感のある大人に成長するための寓話を容易に理解できると同時に、今作品自体の面白さを楽しむことができたはず。
しかし、観客層をかなり狭めることになるため、最終的にはこれらすべてが問題となるのは否めないかな。
ピクサーが過去に成功したもう一つの点は、男性観客と女性観客の両方に同時にアピールする映画を作ること。
女性が主人公のファミリームービーを若い男の子に売り込むのは難しいかもしれないが、『メリダとおそろしの森』や前述の『インサイド・ヘッド』のような作品はすべて女性が主人公でありながら、男性も同じように楽しめる普遍的な要素を十分に備えている。
今作品はもっぱら女性の問題に触れているため、思春期初期の女の子の身体機能に関わるテーマには、男性視聴者はおそらく疎外感や不快感を覚えるんじゃないかな。
月経周期や、女の子の発達段階に関する様々な事柄に言及する場面は、男性観客にはそれほど魅力的に聞こえない。
だからといって、女の子が成長する過程で経験することを男性が知るべきではないと云っているのではなく、男性である小生自身は、レッサーパンダに変身して大人になるという例えはとても賢いと思ったが、メイにナプキンが必要だというジョークを云い始めたとき、今作品の真のターゲットが女性層だけであることに気づかされた。
男性の子供たちがこの映画を見て、あまり楽しめるとは思えないが。。。
勝手な思い込みかな。。。
ピクサー映画が常に映像面で素晴らしいのは云うまでもない。
今作品原題Turning Redというだけあって、赤はかなり目立つ色。
メイの服装、ランタンやキャンドルが飾られた寺の家、そしてフラッシュバック・シーンの照明にも赤が使われている。
今作品の舞台であるカナダの国旗でさえ、ほとんどが赤。
また、漫画のように見える人間と、手前の写実的な物体とのバランスも良かった。
餃子のシワのような単純なものでも、細部までこだわって描かれてたし、餃子から出る湯気もリアルやった。
今作品のストーリーにどっぷり浸からなくても、その美しいビジュアル・スタイルくらいは誰もが理解できると思う。
主演の新人ロザリー・シアンの直感的なエネルギーと決意に満ちた声は、すぐに好きにならずにいられなかった。
レッサー・パンダに変身しても、メイの個人的な不安や若さゆえの魅力を引き出すのに、シアンは決して失敗しなかった。
無口な子からパーティの盛り上げ役まで、さまざまな個性を持つ友人たちとの交流も楽しかった。
余談ながら、今作品の舞台は2002年やそうで、子供たちがスマートフォンやインターネットといった現代のテクノロジーを使わずに機能しているのもなんとも云われぬ感覚やった。
特筆すべきは、メイの母親ミン役のサンドラ・オー。
最初は典型的な厳格なアジアの母ちゃんのように見えるが、ミンは一人娘のことを深く思いやり、彼女のために最善のことを望んでいることがわかる。
ターゲットとする観客層が特定されているにもかかわらず、今作品はピクサーのカタログに加わる楽しい作品と云える。
もちろん、女性だけでなく、すべての人にアピールする方法を見つけていれば、もっと良い作品になったんやろけど、それにしても、すべてがうまくまとまっていた。
kuu

kuu