Rocko

最後の決闘裁判のRockoのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
4.6
嬉しいような悲しいような観客自分一人のみ!
貸し切り状態でリドリー・スコット監督最新作観賞。
実は『キャンディマン』を観る予定で劇場に向かったら間に合わず、10分遅い上映開始だったこちらへ急遽変更。
直前にオンライン座席見たら『キャンディマン』0人。こっちだったらチビってたかも。

リドリー・スコットの才能に泣いた。始まる前から監督が誰か知っていたのにエンドクレジットでRidley Scottの名前を目にした瞬間に身動きが取れなくなった。失敬、Sir Ridley Scott
もちろん一人でもエンドロールは敬意を込めて最後まで全部観終わってから席を立ちました。
これは傑作でした。2時間半の上映時間もあっという間で全く無駄がない。今年ベスト10入り確定!私だけのために上映してくれた感謝も込めてベスト3に入れましょう!!


●感想● (※以下、ネタバレ含むセンシティブな性描写についての感想あり。)




あらすじを読んでしまうと話自体はそれがほぼ全てなので読まなくてもいいと思いますが、レイプシーンを暴力的に見せているため、それ自体が無理な方にはオススメしません。
そこの部分についてジェニファー・ケント監督の『ナイチンゲール』よりはマシです。

舞台は中世フランス。でもセリフと発音はイギリス英語寄り。
まず主演マット・デイモン、アダム・ドライバー、ジョディ・カマーの演技合戦が凄すぎます。
ジョディ・カマーはドラマ『キリング・イヴ』のレビューで絶賛した通りの演技力の高さに脱帽。この映画はいくら主演男優2人が上手くても女性役の演技が上手くないと成り立たないので。衣装も髪型も可愛くて大満足。

長尺の割には序盤から大胆にカットするねぇ・・・と思っていたら観ているうちに駆け足編集の理由が判明。
黒澤明監督の『羅生門』から強く影響を受けたと明かされた3幕構成。(これ観るまで知りませんでした。)
だから1幕目でバッサリ編集されてもまた同じストーリーを2幕、3幕と別の視点で観ることができ、微妙な違いや角度の違いなど間違い探しのスキルも試されることに。
特に性暴力のシーンでは女性を所有物として扱っている男性目線でのカメラは顔を映さず、ジョディ・カマー目線の章では痛みに耐える苦痛の表情がアップとなります。
このシーンを2回も見せられるのか・・・と思いつつ、それぞれの異なる視点から画面を通じて三者三様の感情をぶつけられます。
現代でも裁判に持ち込めば事件の詳細についてしつこく聞かれ、精神的に耐えられなくなるので訴訟どころか親にも言えず口を閉ざす被害者が多いです。友達になら言えると打ち明けられた経験もあります。
セカンドレイプについて時代の違いを使って同じ問題を上手く表現していたと思います。

マット・デイモンとベン・アフレックの共同脚本(1幕、2幕)に女性監督のニコール・ホロフセナー(3幕)を脚本に加えたとのことで、『007NTTD』ではフィービー・ウォーラー=ブリッジが脚本に参加したことによりボンドのキャラに違和感を覚えてしまいましたが、今作に関しては内容が内容だけに女性目線の不満は一切なく、製作陣に女性を入れることが今後ハリウッドでは必要不可欠なんだと言われているような強い説得力がありました。

この作品で何が一番凄かったって、人間の愚かさに対して怒りと切なさが同時に込み上げてくること。史劇を描きながら現代でも未だに同じような問題で互いに苦しめ合っている人間という生き物とは一体・・・?と胸が締め付けられる思いでクライマックスの決闘シーン。
しんどい・・・良過ぎてしんどい・・・。
そして虚しい。。。

大好きな『ブレードランナー』では人造人間と人間の境界線を考えさせられ、今作では動物と人間の境界について考えさせられ、人間らしさとは何か?を突きつけられます。
他にも印象的な白と黒、真実と嘘、正義と不義…
観賞直後ではなく作品の内容でもなく天才的なSir Ridley Scottの才能に後からジワジワと泣けて来ました。
マット・デイモンの怒りはSir Ridley Scottの社会への怒りと受け取りました。
何度でも言う!傑作!!
Rocko

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